月夜の狼亭

TRPG活動に関してのあれこれを書き残すための場。SW2.5自キャンペーン「300年目の英雄譚」に関して中心となります。

300年目の英雄譚_「幕間:ギルドマスターの憂鬱な一日」

こんにちは、とたけです。
今回は幕間回、GM幕間第二弾です。第一幕、星振りが丘での依頼を行っている最中のギルドマスター“ガルフ”さんの一日を描いたものになっています。

この幕間では、シナリオに登場していないとあるキャラクターたちが登場しているのですが、実は彼ら別卓にて活躍したPCたちです。「300年目の英雄譚」は、別卓にて登場したPC達をキャンペーンに多く登場させています。その多くは、本CPに参加しているPLたちの別PCや、そのPC達とパーティーを組んでいたPC達になります(各PCさんへ使用許可を頂いたうえで本CPへ起用させていただいております。)

今回は、本CPの参加PLの一人であるベーゼンさんが過去に開いてくださった「閉ざされた町に咲く花」より4名のキャラクターが登場しています。

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筆者:GM/とたけ 「第一幕:かかわる世界、かわる世界」の後の話。

「幕間:ギルドマスターの憂鬱な一日」

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「これで28枚目、はぁ……」
どんっ、と書類に判子を押す音が室内に響く。
やや疲れた表情の男性は、今しがた判子を押した書類をもう一度確認し
『確認済み』と書かれた箱の中へと投げ入れる。
冒険者ギルド“月夜の狼亭”──────別名《ダイアウルフ》の2階にある
ギルドマスターの執務室に大きなため息がこぼれる。
書類に判子を押している男性は、やや灰がかった狼の耳をぴくぴくと動かしながら
天高く積まれた書類に手を伸ばしている。
筋肉質な体を若干窮屈そうに丸めながら、ガルフ・ローランは事務作業に明け暮れていた。


“月夜の狼亭”はハ―ヴェス王国でも中堅クラスの冒険者ギルドだ。
とはいえ、抱えている冒険者の数は100人を越え、ギルドに詰めている職員たちの数も年々増加し
ありがたいことにこの冒険者ギルドは日増しに大きくなっている。
が、当然人が集まればその分やることも増えていく。
職員たちへの給与の支払いもそうだが、冒険者たちへの報酬支払や冒険の末に勝ち取り
はぎ取ってきた素材の買取、そしてその素材を各業者へ適正な価格で販売する……
これらの作業の間には当然のように大量の書類が発生し、最終的な責任者である
ガルフの決済印を必要とするものも多い。
この大量に発生した事務作業を、ガルフはため息交じりに進めていたのだ。
「えーとこれは…先日の《深淵歩き》討伐にかかった経費の一覧か…」
わしわしと頭を掻きながら、ガルフは一枚一枚書類を確認し、決済印を押していく。
別段、ガルフはこの事務作業が嫌いなわけではなかった、無論好きなわけでもないのだが
それはなぜかと言えば、普段はこのさみしい執務室に一人娘であるウルルの姿があるからだ。
今年で6歳になる、活発なリカントの少女。それがガルフにとっての心の支えとなっていた。
ウルルさえいれば、この楽しくもなんともない忌々しい事務作業も、平然と行えるのだが……
今はその心の支えも、ガルフの元にはいない。


さかのぼること数時間前、ウルルにせがまれて駆け出し冒険者用の装備品を見繕っていた。
自分のお古ではあるが、使いやすく必要最低限の装備を整え、まだ幼いウルルの身体に合うように調整を施した装備品。
それらを嬉しそうに着こみながら、1階にいる冒険者たちに姿を見せていたのが今日の朝。
そして、ウルルが冒険者たちの依頼に着いていったと聞かされ、大慌てで追跡しようとし
何人かの冒険者と受付嬢たちに取り押さえられたのが今から少し前の話だった。
……心配だ、何事もなければいいが。
受付嬢から聞くに、依頼の任地は「星降りヶ丘」だと聞く。
ここから近い、駆け出し冒険者向けの地域で、危険度の高い魔獣はおらず
蛮族も確認されていないエリアだが、どうしても気になって仕方がない。
実は何度かこっそり抜け出そうと試みたのだが、出入り口で見張っている熟練冒険者たちと受付嬢の監視を逃れるのは難しい。
いっそのこと窓から飛び出してみようかとも思ったが、先ほどからギルドの上空を飛んでいる鳥───おそらくは上位のファミリアだが───
そいつの監視のおかげで、窓から飛び降りての逃走も困難だ。
結果、仕方がなくこの部屋で事務作業をする羽目になっている。


こんこんと、部屋の扉をノックする音が聞こえる。
どうぞ、と軽く声を掛けると受付嬢の姿が見え、執務室に入ってくる。
「何かあったのかい? あと、そろそろボクへの監視を解いてほしいんだけど……」
やや恨めし気なトーンで受付嬢を詰ってみるが、当の本人は我関せず、といった様子で口を開く。
「監視の件については、そこの書類を終わらせていただければいつでも解きますよ?」
「私がギルドマスターに報告しに来たのは別件です」
とブリザードよりも冷たい表情とトーンで言い返された。
「あぁそう……で、その報告ってなに?」
そう聞いてみると、受付嬢はやや眉根を寄せ少し小声で用件を伝えてくる。
「その…“シルバニア”のメンバーが帰還したのですが、何やらギルドマスターに話があるとかで」
「地下の訓練場へ一人で来てほしい、と……」
シルバニア、“月夜の狼亭”でも中堅にあたる冒険者チームだ。
腕もよく、そろそろ熟練クラスの冒険者にあたるベテランぞろいなのだが……彼らがわざわざボクを呼び出す用とは何だろうか?
「わかった、とりあえず行ってみるよ」
伸びをしながら席から立ちあがり、扉へと向かう。
「マスター…これを口実に逃げ出さないでくださいよ」
受付嬢に、じとっとした目で釘を刺される。
どうやらよほど信頼されていないらしい。ボクは軽く肩をすくめながら、わかったよと言葉を返し部屋を後にした。


ギルドの地下には、大きな訓練場がある。
そもそもこのハ―ヴェスという街は、魔動機文明以前から続く巨大な遺跡の上に成り立っている。
この街の水路や魔導灯なども、かつての先史時代の名残の一つなのだ。
故に、この街の地下には大きな地下遺跡が無数に点在しており、今でも時折遺跡が見つかることがある。
地下深くに魔剣と、その魔剣の迷宮でもあるのか、知らぬ間に地下空間が増殖していることは珍しくもない。
このギルドの地下空間もそういった遺跡の一つであり、こうして有効に活用させてもらっているのだ。
地下へと下る階段を降りつつ、地下にある部屋の中で最も大きな部屋である訓練場の両扉を開ける。
訓練場はかなりの広さがあり、石畳が敷き詰められた武骨な床の上にはいくつもの訓練用道具が設置されている。
模擬戦闘もできるように円形の空間となっており、ちょっとした闘技場という雰囲気だ。
普段であれば熟練冒険者たちや、冒険者を引退した指導役の面々が、駆け出し冒険者たちを鍛えているのだが
今はどういうわけか、この広い空間にはだれもいない。
いや、厳密には“シルバニア”の面子4人と、見知らぬ顔の女性3人が闘技場の真ん中に突っ立っている。
……なぜだろうか、すごく嫌な予感がする。


「呼ばれてきたんだけど、一体何をしようっていうんだい?」
声に警戒心を織り交ぜながら、目の前の4人の冒険者たちと後ろに控えている3人の女性を確認する。
一番端に立っているのはシルバニアの前衛兼、斥候も務める人間の女性、リアーネだ。
強化されたレイピアに自身の魔力を載せた一撃を放つ《魔力撃》を使う軽戦士で、少し緊張した面持ちでこちらを見つめている。
普段は優しいお姉さんのような存在で、駆け出したちにもよく前衛での戦い方や斥候としての心構えを説いているような彼女だが
そんな彼女が緊張しているとは、一体何事だろうか。
その隣では落ち着きなくおろおろとあたりを見渡している、小柄なリカントの少女…いや、少年なのか? がうろついている。
同じくシルバニアの前衛を務めているリーンだ。小柄な体格とその風貌に似合わず、想像以上の筋力を兼ねそろえた戦士でもある。
よくウルルとも遊んでくれており、時折訓練場でかけっこやかくれんぼなどをしているのを見たことがある、あの子は一体いくつなんだろうか。
そんなリーンをたしなめているのが、すらりと伸びた背に美しい髪が印象的なエルフの女性、ヴィオーラだ。
どこかミステリアスな雰囲気を持つ彼女は、バードとして卓越した技能を持ち合わせている。
何度か彼女の歌を聞いたことがあるが、まるで吸い寄せられるような魅力があった。……今度演奏会を開いてくれるように打診してみようか。
そして、その隣にはどこか不敵な笑みを浮かべている長身のタビットの姿がある。ゼニスだ。
並外れた知力と、高い魔法適正をもつ彼はまさにシルバニアの要といったところだろう。
なんといっても頭が切れる、あの知性の高さはボクでも侮れないものがある。そんな彼が笑みを浮かべて待っているのだから警戒度は一気に引きあがる。
「御足労痛み入る、ガルフ。すこし折り入って話が合ってな」
ゼニスが口を開く。なぜだかさっきよりも嫌な予感が増している。
「後ろにいる彼女たちのことでな、オレ様の話を聞いてもらいたい」
そういいながら、彼が後ろに目をやる。そこには先ほどから不安げな表情で立っていた3人の女性がいた。
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一人は茶色の髪に、帽子をかぶった人間の女性だ。
黒いロングマントと持っている手荷物からして行商人か何かだろうか。
どうも状況を把握できてないのか、リーンと同じぐらいあたりをきょろきょろ見渡している。
二人目は金色の髪が目立つ女性だ。種族は人間だろう。
様子を見るに一般人のようだが、胸に掲げるあの聖印は始祖神であるライフォスのものだ。
どうやら神官らしい。こちらの女性は先の女性とは異なり、不安そうな面持ちでボクの方を見つめている。
三人目は黒髪を肩まで伸ばした女性だ、だが……なにやら妙な気配を感じる。
他のメンバーとはことなり、緊張や不安といった感情の中に、ほんの少しだが敵愾心を感じ取れる。
嫌な気配だ、何者かは知らないが警戒するに越したことはないだろう。
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「……で、彼女たちについて一体何を話してくれるんだい?」
警戒心を露わにした声でゼニスを問う。間違いなく何かを隠している。
「おいおい、そんなに警戒するなよ。───それに、警戒するのはこいつを見てからでも遅くはない」
ゼニスがそういうと、彼は後ろの三人に片手をあげて合図を送る。
すると、三人の中でも黒髪の女性が意を決した覚悟で一歩前にでて、ボクの顔を見つめる。
一体何をするつもりだろうか、ボクがそう思った時それは突然に現れた───
めりめりと、引き裂くような音と共に彼女の下半身が大きく変貌し始める。
まるで風船が膨れ上がるように彼女の足が膨らみ変化し、一本の巨大な蛇と化していく。
───嫌な予感は的中だった、考えるまでもない。人に化け、その血を糧とする蛮族、ラミアだ。
だが敵対する意思はないのか、上半身の人間部分の彼女は何か恐れたような、おびえたような表情でこちらを見ている。
「……これは一体、どういうことだい?」
冷え切った冷徹な声でシルバニアに語り掛ける。
もし彼らが人族を裏切るようなものであれば、この場で全員を“処断”する必要がある。
語り掛けつつも呼吸を整え、いつでも叩き潰せるように拳を握る。
「待ってよガルフ! 彼女たちに敵対する意思はないわ!」
リアーネがそう叫び、ラミアと僕との間に割って入る。
「そうだよ! メグは確かに蛮族だけど、いい蛮族だもん!!」
つづいてリーンが、勢いよく飛び出してまくし立てていく。
彼女らが嘘をついていいる節はない。それはギルドマスターとしても、元冒険者としての勘もそう判断している。だが……
「君たちが何を見て、何を知ったかは知らないが……意志があるかないかはギルドマスターである、ボクが判断することだ」
冷ややかに、冷徹に。鋭い刃物を突き立てるように飛び出てきた二人に言葉を叩きつける。
「ラミアの……メグという名前だってね。君は一体、ウチのギルドに何をしに来たんだい」
「それに後ろの子たちも、もしかして蛮族なのかな?」
ちらりと後ろに目線を動かす。金髪のライフォス神官と目が合う。
恐怖の表情。ただ、それ以外にも何か表情が隠れているように思える。
「っ……!! 違うっ、アンジュもカリンもただの人間よ! 蛮族は貴方の前にいる、私だけだわ!」
メグが声をあげ、アンジュと呼ばれた女性との間に割って入る。
「ラミアである私がこんなことを言うなんて信じてもらえないかもしれないけど…彼女は私にとって、大切な人なの」
「お願いだから……手を出さないで頂戴」
懇願するような、祈るような表情で、かすれるように声をあげる。
「……いいだろう、君たちの“処断”は置いておくとして、君は一体何をしにこんなところまで来たのかね」
少し殺気を緩めつつ、ラミアの少女に声を掛ける。
「私は…アンジュと一緒に生きると決めたんだ、何があってもどんなことが起こっても」
「悩み、苦しみ、どうしたらいいのかわからなくなった時、そこにいる冒険者───シルバニアの皆と出会った」
「彼らがいたから、私もアンジュも一歩を踏み出すことができたんだ」
「だからどうか……どうかお願いします、私とアンジュを───冒険者としてここにおいてください!」
ラミアのメグは、涙ぐみながらゆっくりと語り、頭を下げて願う。
───驚いたものだ、シルバニアの連中は大抵何かやらかして帰ってくるのだが、まさか今回は蛮族を連れて戻ってくるとは。
しかもまぎれもなく、本心から冒険者として活躍したいと願い出てきている。
嘘を言っていないことは、彼女の目を見れば明らかであった。あの眼差しは、苦しみ、悩み、果てしない迷いの先に見出した一つの希望
それに縋り、祈り、憧れたものの眼差しだったからだ。
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しばしの沈黙。
恐ろしく冷たい空気と、沈黙が訓練場を包み込んでいた。
その静寂を破るように竪琴の音色が響き渡る。
「───果てなき旅路に 夢見る先は」
「月夜に浮かびし 望郷の宮───」 
「───しかして我ら 忘却の果てに」
「ついぞ叶わぬ 帰郷の夢───」
囁くような小さな声だが、不思議と訓練場いっぱいに響き渡る。
まるで心を締め付けるような懐かしさと悲しさを想起させる、ヴィオーラの歌声が響く。
「彼女たちの安全性は、私たちが保証いたしますわ。……それに、マスターも感じたでしょう?」
何を思ったのか見透かしているかのような声が、脳裏に突き刺さる。
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ふっと息を吐き、意識を整える。
「……だとしてもそれを判断するのはボクの義務だ」
拳を握りしめ、一歩前に歩き出す。
それにつられて全員が警戒の色を見せる。
「望むのなら、本気で抵抗して見せなさい。──────それができないのなら、ここで皆処断するまでだ」
足で地面を踏みしめ、体を低く保ってから一気に地面を蹴り上げ疾走する。
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「やはりこうなったか……では示して見せよう」
ゼニスがそうつぶやくのが聞こえ、その声に反応してシルバニアのメンバーが一気に動き出す。
真っ先に突っ込んできたのは、リカントのリーンだ。
メイスを片手に持ち、もう片方の手にはカイトシールドを握りしめ、行く手を遮るように前進してくる。
「マスターの分からずやァ!!!」
リーンの瞳孔が縦に割れ、猫の目を輝かせながら顔立ちも獣のものへと変化していく。
獣の咆哮をあげながら、リーンは勢いよくボクを狙ってメイスを縦に振り下ろす。
だが単調な攻撃だ、走りながら体をよじりリーンの攻撃をよける。リーンの放った強烈な一撃が、ボクをかすめるようにして振り下ろされ、硬い石畳と激しく衝突する。
空振りに終わったメイスの攻撃の隙を狙い、握りしめた拳をがら空きになったリーンの身体に叩き込む。
「───っ痛ぅ!!」
間一髪、よろめきながらもボクの一撃をカイトシールドで受け止めていた。なるほど、懸命な判断だ。
──────ただ、その崩れた姿勢でもう一撃に耐えれればの話だが。
間髪入れずに、さらに追加の一撃を今度は盾でカバーしきれない足に向かって叩き込む。
この一撃は避けられない、これでリーンはしばらくは動けないだろう──────そう思っていた瞬間、首筋に殺気を感じ取る。
殴りつける勢いのまま、地面へ勢いよく転がり間合いを取る。
先ほどまでボクの首があったところを、鋭いレイピアが貫く。───リアーネだ。
「……今の、当てる自信あったんだけどなぁ」
レイピアを構え、数m先で相対しながらリアーネはつぶやく。
初手のリーンの大ぶりな一撃は陽動で、ボクの攻撃を誘発させその隙に本命であるリアーネが急所を狙う作戦だろう。
互いの性格をよく見てくみ上げられている、ゼニスの差し金か、彼らが無意識にやっているかはともかく息の合ったコンビネーションだ。
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ちらりと彼女たちの後方を見やれば、ゼニスとヴィオーラは武器を構えているがすぐさま動く様子はないようだ。
何を狙っているのかわからないが、とにかくはこの前衛二人をおとなしくさせる方が先決だろう。
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「行くよっ、リーン!」
今度はリアーネがレイピアを構えながら、間合いを詰めてくる。
強化されたレイピアが、魔力を纏いながら鋭い突きを放つ。並みの蛮族であれば、この一撃で胸に風穴があくだろう。
だが鋭すぎるその攻撃は、その鋭さゆえにあたりどころも想像がつく───胸を狙った一撃は再び虚空を貫く。
「ぐっ……!?」
致命的な突きの一撃を躱し、すれ違いざまに掌底をリアーネに叩き込む。一瞬、ふらりと姿勢を崩すが、さすがは熟練の冒険者といったところか
強烈なカウンターを受けても、まだリアーネは立っている。
「リアーネから離れろぉ!!」
咆哮に交じり、リーンの激昂した声が聞こえる。
リアーネの背後からは、盾を投げ捨てメイスを両手で握ったリーンが迫り来ていた。
強靭な肉体と、発達した筋肉を怒張させながら全力の横なぎ攻撃を放つ。
「力任せも嫌いじゃないが……すこしは学習した方がいいね」
大ぶりの一撃が当たるよりも早く、リーンとの距離を縮め、彼女の襟首を掴み取る。
突然の出来事に、リーンは目を白黒させている───だが、彼女が抵抗するよりも早く、その小さな体をリアーネを巻き込む形で投げ飛ばす。
「きゃんっ!!」
もうもうと砂ぼこりが上がり、リアーネを巻き込みながらリーンは地面に倒れ、ピクリとも動かない。
リアーネもリーンに巻き込まれ、数m先で二人仲良く地面に伏している。
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「──────真、第六階位の攻──────」
ピクリと耳を立て、あたりを見渡す。
肌がざわつき、毛が逆立つこの感覚……前方を見るとゼニスが魔法を詠唱している。
しかしこの魔力、並の魔術師のものではない。おそらくは隣で呪歌を演奏しているヴィオーラと
メグと呼ばれたラミアも、何かしらの支援魔法を行使し限界まで魔力を上昇させているに違いない。
彼我の距離は20m以上、一気に近づいても魔法を止めることはできないだろう。
どうやら、真の狙いはこれだったようだ。
前衛二人が時間を稼ぎ、その間に強烈な一撃を生み出すために備える。
おそらくは二人が倒されることも想定済みだったのだろう……食えない男だ。
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「──────火炎、灼熱、爆裂───火球!」
最後の詠唱を唱え終わり、煌々と燃え上がる極大の火球が生み出される。
その火球は、一直線にガルフの元へと大地を這う大蛇のごとく忍び寄る。
回避は不可能、あれだけの魔力が込められた火球だ、直撃すればタダでは済まない。
「なるほど……少し甘く見ていたか、これは」
迫りくる火球の前、強く拳を握りしめ筋肉を隆起させながらガルフ・ローランはつぶやいた。
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濛々と砂ぼこりが立ち上がり、濃密な煙が訓練場を覆っていた。
パラパラと舞い落ちる砂やがれきを服から払いつつ、ゼニスは目の前の状況を観察していた。
強烈な爆炎によって発生した砂ぼこりと煙は、いかに広い地下空間といえども視界をゼロにまで悪化させている。
隣にいるヴィオーラや、背後で動いているメグやアンジュたちは気配で察せるが
ガルフがどうなったかは、煙が晴れるまでは分からないだろう。
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「……ふん、一応警戒はしておくか」
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ヴィオーラには目線で呪歌を続行するように伝える。
すでに数曲を演奏している彼女だ、前衛の二人を回復するだけの楽素もすでに溜めてある。
一応、念のために後方のメグやアンジュ、カリンにもいつでも動けるように声を掛けて指示を出しておく。
とはいってもこのありさまだ、先ほど放った《ファイアボール》も確かな手ごたえがあった。
たとえ動けたとして、それなりのダメージを負っているはずだろう。
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濛々と煙が立ち込める中、ふと足元に転がっているがれきを見る。
おそらくは石材だろう、砕けて小さな破片となっているが……妙なことにその断面は、激しく熱で溶かされている。
確かに、あれほどの爆発なら石材が破片となることもあるだろうが、ここまで激しく融解するとなると、火球が“直撃”する以外にあり得ない。
まさか──────そう思った瞬間だった
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煙の中から黒い影が躍り出て、ゼニスの目の前に飛び出てくる。
灰色の狼の耳に、逞しい尻尾。
屈強な戦士の肉体をもち、まるで飢えた狼のような鋭い眼光。そこにはギルドマスターである、ガルフ・ローランが立っていた。
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「っ……! オレ様の火球を受けてまさか立っているとはな……一体どんな手を使ったんだ?」
彼我の距離は5mもない、もし彼が本気で殺しに来たら抵抗の余地などないことは明白だ。
当のガルフは、落ち着いた雰囲気で肩についた埃を払いながらゆっくりと距離を詰めてくる。
「そんなに難しい話じゃない、避けられないなら直撃する前に壁を作ったまでさ」
ガルフは指先を石畳に向けて語りだす。
「あの火球が直撃する前に、石畳を放り投げて先に誘爆させたんだよ……まぁちょっと尻尾の先が焦げたけどね」
こともなげに話すガルフだが、あの短時間で石畳を掘り起こして投げ飛ばすなど、常人の技ではない。
「とんでもない馬鹿力だな……化け物め」
ガルフはゼニスの言葉に相好を崩しながら、拳をにぎる。
「化け物か……ボクには英雄にも神様にもなるような度胸も心構えもなかったからね、そういわれるのも仕方がない」
「さて、ハンターと子狐狩りは終わったし、そろそろ兎狩りと行こうか。───最後は蛇狩りかな?」
ガルフは拳を構えながら、ゼニスの目の前に立ちはだかる。
その目は冷徹で、断固たる決意のもとに審判を下す、ギルドマスターの目だ。
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ここまでか……、杖を掴む手に力が入る。諦めの色が見えたときだった
「───成った」
背後から、心を鼓舞する旋律が聞こえる。
しかし、急激にその音色は変わり、荒々しく猛々しい咆哮のような音色に変わる。
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「───狂える怒り、叫びとなりて」
「敵対者を喰い荒らしなさい───」
「───終わりの旋律、獣の咆哮」
ヴィオーラが竪琴をかき鳴らし、禍々しい音色と共に終律を歌い上げる。
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まるで旋律が一つの生き物のように突き進み、幾つもの見えない牙をガルフに突き立てていく。
「ぐっ……呪歌か、だがこの程度では致命打にはならないよ……っ」
さしものガルフも苦し気な表情で胸を押さえてはいるが、次第に終律の効果も収まっていく。
「ちぃっ!!」
マナスタッフで殴り掛かるが、この程度ではどうすることもできない。
当然のように、横殴りの攻撃を受け止められがっしりとスタッフを握られてしまう。
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「……どうやらチェックメイトのようだね」
終律の効果も切れ、ガルフは息を整えて悠然とした表情で見下している。
片手でマナスタッフを握られ、もはや逃げることも戦うこともできない。
「そうだな──────これでチェックメイトだ」
ゼニスの口がにやりと笑う。
「っ!?」
不意に上空から何か落ちてきて、それはガルフに覆いかぶさる。
いや違う───”絡み取られている”
生暖かく、表面は若干ざらついているがしなやかな感触
手と足と胴、そのすべてに絡みつき、自由に体を動かすことを許さない。
かろうじて手は動くものの、がっちりと締め付けられ回避はままならない状況だ。
「動かない方がいいよ、下手に動くと関節が外れるから」
頭上からメグの声が響く、ぎちぎちとメグは大蛇の身体でガルフを縛り上げながら真剣なまなざしで見つめている。
「だが…この程度……!」
身体に力をいれ、拘束を振りほどこうとしたとき
───首筋に冷たいレイピアの切っ先が触れる。
その先を見れば、レイピアを構えガルフの首筋に突き立てているリアーネと
メイスを片手で握り、同じくいつでも頭を打ち砕けるようにと構えているリーンの姿がある。
「今度は外さないわよ?」
リアーネはレイピアの切っ先を突き立てながら、そう宣言をする。
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「一体二人がどうやって……」
はっと気が付いた様子でガルフは周囲を見渡す、アンジュとカリンの姿が見えない。
ふと天井を見てみると、そこには天井からぶら下がるようにして二人の少女が聖印を構えている。
「ご明察の通り、メグ・アンジュ・カリンにはあらかじめ《ウォールウォーキング》をかけておいたのさ」
やれやれといった表情でゼニスが近づき、マナスタッフを奪い取る。
「あんたが突っ込んでくるのは予想できたんでな……3人には煙に紛れて天井伝いに移動し、リアーネとリーンの回復をしてもらったのさ」
「どうやらあんたは、前衛は陽動と思っていたようだが後衛のオレ様たちも陽動だ、今回のメインは天井に張り付いてた3人、という事だ」
「2人の回復が間に合い、不意打ちが成功するのが先か、あんたがオレ様たちを倒しきるのが先か……賭けだったが、どうやらオレ様たちの勝ちだったようだな」
改めてマナスタッフを構え、いつでも詠唱できるように魔力を練り上げ始める。
「さてマスター、どうやら狩りの獲物は“兎一匹”から“狼の群れ”に変わったようだが……どうだ、続けるか?」
リーン、リアーネ、ヴィオーラ、ゼニスのシルバニアメンバー。そしてメグ、アンジュとカリンの3人。
それぞれが決意と信念に満ちた眼差しをガルフに向ける。
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「ふ……ははははっ!!」
大蛇に縛り上げられながら、ガルフは高らかに笑い声をあげる。
「はははは!! はぁ……まさか、君たちがここまで完璧なコンビネーションを見せるとは思ってもみなかったよ」
「──────合格だ。腕の立つ冒険者を見逃したとあっては、ギルドマスターの名折れだからね」
「君たちを歓迎しよう。 ようこそ、冒険者ギルド“月夜の狼亭”へ!」
ガルフは高らかに宣言しながら、周りの皆を見渡す。
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「ほ、ほんとにいいの…? だって、私蛮族……」
メグは驚いたような表情で声をあげる。
「何、冒険者ギルドに所属する冒険者の中には、もともと蛮族領から逃げてきた者たちもいてね」
「君たちのことは、うまいことボクが皆に説明しておくよ。……ただ、君たちが認められるにはそれなり以上の努力が必要だ」
「認められるのは簡単な道のりじゃないけど、ギルドマスターとしてボクはキミたちを全力でサポートしよう」
ガルフの言葉を聞き、メグは顔をほころばせ天井のアンジュを見上げる
アンジュもまた、満面の笑みでメグを見つめ喜んでいる。
「一件落着だねっ……最初はどうなるかと思ったけど!」
リーンがメイスの構えを解き、笑顔で皆の顔を見つめる。
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ガルフはにこやかな表情でその顔を見ているが、不意に口を開く
「ははは、ただ……一つお願いがあってね」
「まぁボクも、久しぶりに血が騒いでるんだ……すこし付き合ってもらえるかな?」
瞬間、ガルフは体に力を籠め始める。
一瞬にして訓練場全体を包み込むように、緊張が走る。
ぞっとするほどの気迫、髪は逆立ち、本能が警鐘を鳴らしている。
全員が慌てて武器を構え、メグもガルフを締め上げる蛇の胴に力を加えていく
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「──────真、第十階位の攻。──────」
ガルフが魔法文明語で言葉を紡ぐ。
彼の右手に嵌められた銀の指輪が怪しく輝き、空中に魔法文字を描いていく。
「第十階位だと……! いかん、全員離れろっ───!!」
ゼニスが叫び、全員が慌てて距離を取ろうとするも、それよりも早く術式は完成する。
「──────冷気、吹雪、暴風───猛雪!!」
ガルフを中心に、猛烈な冷気が巻き起こり地面を、大気を一瞬にして凍結させていく。
次いで強烈な暴風が巻き起こり、大気中の水分が氷の槍と化し周囲一面に襲いかかる。
極小のブリザードは周囲の悉くを巻き込み、一瞬にして破壊していく。
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大気中の空気が急速に冷却され、ぱりぱりと不気味な音を立てている。
「おいおい……全員無事か?」
ゼニスが声を上げ、周囲を確認する。
「痛ゥ……さっきアンジュとカリン治してもらったのに、何とか大丈夫よ」
凍傷を負いながらも、リアーネが立ち上がる。
その隣にはガチガチと歯を鳴らしながら、ぱりぱりに凍った尻尾を抱えてリーンも立ち上がっている。
「寒すぎるよぉ…! なんなのさ今の!?」
「真語魔法……それもかなりの高位の魔法のようですね」
ヴィオーラも、ゆっくりと立ち上がりながら周囲を確認している。
「しかし……この展開は予想できなかったのですか? ゼニス」
やや詰るように、うっすらと笑いながら不思議な雰囲気を纏ったエルフは優雅に言い放つ。
「はっ……オレ様の予想通りなら、あいつまだ奥の手の一つや二つは隠し持ってるぞ」
マナスタッフを握りなおしながら、ゼニスは不敵に笑みを浮かべる。
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「おや、メグたち3人は今の一撃で伸びてしまったようだね……さて、作戦会議はもう済んだかな?」
破壊しつくされ、凍り付いた地面と真っ白な靄の中から、霜を踏みつけながらガルフが歩み寄ってくる。
「さてと……それじゃあワイルドハントの続きをしようか」
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
どうやら戦意は最高潮らしく、一瞬で頭部を狼の姿へ変貌させる。
灰色の狼は咆哮を上げ、その強靭な両足で大地を蹴り上げ、冒険者へと襲い掛かる。
どうやら、第二ラウンドはハードなものになりそうだ───────
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ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「ほんとなんなのさー!!もぉー!!!」
いら立ちを表すかのようにメイスをぶんぶんと振り回し、周囲のがれきを破壊するリーンの姿が見える。
地下の訓練場は、つい数時間前とは様変わりしていた。
破壊されつくした石畳に、崩落寸前の天井
壁のいくつかは大きく抉れており、一部は強烈な熱によって融解しているところもある。
ぼろぼろになっているのは、訓練場だけではない。
シルバニアのメンバーも、メグやアンジュ、カリンもひどく汚れ、あちこちに打撲の跡があり
かなり疲弊した表情で地面に座っている。
「……なんでお前はそんなに元気なんだ?」
ぐったりとがれきの上に腰かけ、呆然と周囲を見つめていたゼニスは声をあげる。
ゼニスだけではない、リアーネもヴィオーラも疲れ果てかなり損耗している。
それもそのはず、先ほどまで4人とも地面に伏し、気絶していたのだ。損耗していないはずがない。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
結論から言えば、第二ラウンドは一方的な戦いに終わった。
どうやらガルフは最初から本気ではなかったらしい───それは薄々気がついてはいたが
まさかこれほどまでの力を隠し持っていたのは計算外だった。
第十階位の真語魔法を平然と放ち、武器も防具もつけずに4人の冒険者をやすやすと相手取る。
元はかなり高位の冒険者であるとは聞いていたが、ここまで来ると本当に人族かどうかを疑いたくなる。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「しっかし、それでもあの強さは反則だよねー……」
あちこち焼け焦げたリアーネが口を開く。
リアーネの放った攻撃は、その悉くは避けられ逆に手痛い反撃を受けていた。
ガルフの動きは一流の拳闘士のものであり、的確に技を受け流し、時には相手の力を使って反撃する
動静に富んだものだったのだ。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「だけどっ妙に剣士としての戦い方に詳しかったよねっ、マスターってさ」
リーンは相変わらずがれきを砕きながら、いら立ち紛れに愚痴をこぼす。
リアーネもこれに頷く。どうも前衛二人はガルフの行動に、妙な違和感を感じていたようだが
違和感の原因はこれにあるらしい。
剣の間合い、打点の高さ、その取扱いを熟知した立ち回り。
二人はこのガルフのこの動きに翻弄され、なすすべなく撃破されていったのだ。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「……恐ろしいのはあの近接戦闘能力もですが、それ以上に多彩な遠隔攻撃をもつ点でしょうね」
ゆっくりと竪琴を弾き、夏を彷彿とさせる終律で締めながらヴィオーラが語る。
猛烈な連続攻撃だけでなく、後衛にも的確に魔法を放ち、前衛との連携を阻害する。
ガルフの多彩な魔法は、ヴィオーラの呪歌と、妖精を駆使した手厚い援護すらも打ち破り
前衛だけでなく、後衛すらも苦しめていた。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「一番腹立つのは、訓練場の後始末を丸投げされたところだよっ!!」
リーンは怒りの一撃を、地面に転がっている大きながれきにぶち込んでいた。
気絶し倒れた4人と3人を回復し、《アウェイクン》によって起こしたのはガルフ本人だった。
どうも日頃のうっ憤でも溜まっていたのか、晴れ晴れとした笑顔で改めてアンジェ、メグ
そして哀れにも巻き込まれたカリンをギルドの一員として迎え入れ
シルバニアの4人には「後片付け」を言い残してさっそうと戻っていったのだ。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「まぁ、訳ありの娘二人連れてきてこの程度で済んだんだ、良しとするほかないだろう」
ちらりとゼニスが3人娘の方に目をやれば、疲れ切ってはいるがどこか安堵したかのような表情で目を閉じ、眠っていることに気が付く。
「まぁそれもそうだけど……だからって、こんなの掃除するなんて無理だもんっ!!」
今にも獣変貌しそうな勢いで、リーンは勢いよく壁をメイスで殴っている。
あれだけ激しい戦いを駆け抜けたというに、どこにそんな体力が残っているのやら。
「おい、そこら辺の壁はかなり脆くなって──────」
「あっ──────」
がすっ、っと鈍い音が響くのと同時にリーンの一撃が壁を打ち抜き、メリメリと音を立てて崩壊し始める。
一瞬にして崩落した壁から逃れる暇もなく、リーンはがれきの山に飲み込まれていた。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ
「ちっ……お前は余計な手間を増やさないと気が済まないのか?」
けだるげにゼニスは立ち上がり、リアーネとヴィオーラも様子を伺いに崩れた壁際にちかよる。
土砂の中からはくぐもったリーンの声が聞こえてくる。どうやら無事らしい、タフな奴だ。
「ちょ、ちょっと……あれってもしかして……」
リアーネが驚きの声をあげながら、崩れた壁の向こう側を指さしている。
どうやら、壁の向こう側は未発見の遺跡だったらしい、埃っぽい空気が訓練場へと漏れ出てきている。
だが、驚いているのはそこではない。
その遺跡の中に浮かぶモノ。異様な外観と、見るものすべてを吸い込むような漆黒の黒。
「……どうやらとんでもないものを引き当ててしまったようですね」
ヴィオーラもため息交じりの表情で、見つけたものを凝視している。
「面倒ごとが増えたな……まったくリーンには振り回されてばかりだな」
3人が見据える先には、真っ黒な球体が不気味に浮かんでいた。
どこまでも黒く暗い魔球──────そこには奈落の魔域が静かに鎮座していたのだ。
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Picrew ストイックな男メーカーより やすばる様

300年目の英雄譚_「第一幕:かかわる世界、変わる世界」ふりかえり!

こんにちは、とたけです。

以前の記事に引き続き、今回は第一幕についての振り返り記事となっています。
前回、序幕の記事はこちらからどうぞ!

totake00.hatenablog.com

 ■本セッションのログ置き場

#1 - Google ドライブ

 

◆ざっくりシナリオ振り返り

今回は第一幕で、序幕の続き。序幕では初めてPC達が顔を合わせ、突発的ではありますが依頼を共にした、という程度の仲。なので、第一幕ではさらにその仲が深まるように、共同で依頼をこなしつつ、お互いのことを知ってもらえるようなシナリオを目指しています。

ざっくりとした話の流れは

・お金のない冒険者たち、冒険者ギルドにて依頼を物色

・いくつかの依頼をピックアップ、同時にウルルと合い、連れてってとせがまれる

・馬車に乗って移動。途中で馬車に紛れ込んだウルルを発見

・任地へ到着、依頼をこなすため探索を開始

・自由探索フェーズ

・探索中に敵と接触、戦闘開始!

・森の深部にて強敵を発見、戦闘を選択

・依頼を達成、ギルドへと帰還

といった流れ。今回は物語性はあまり重視せず、舞台を用意してPC/PLに丸投げる感じに近い形式です。ダンジョンアタックとまでは行きませんが、それに近いかな?

そのため、今回は大きな物語性のある依頼、ではなく、小さな依頼、例えば鉱石の採取や薬草の収集といった駆け出し冒険者でもできそうなお小遣い稼ぎの依頼を沢山受けてもらい、自由に探索できるフィールドで自由に行動し、自発的に動いてもらおう。といった構成になっています。ぶっちゃけた話、モンハンみたいな感じです。

実際、このシナリオではハ―ヴェス王国にほど近い「星振りが丘」という地域を舞台に、洞窟にもぐって鉱石をあつめたり、森に入って薬草をあつめ、平野で目撃された獣を討伐する……といった小さな依頼をいくつか用意しました。また、時間が経過し夜になればテントを張って野営をし、焚火の前でともに食事をとる、といったイベントなども起こしています。夜のイベントでは、冒険についてきたウルルが、PC達に冒険者になった理由」を聞き、一緒に食事をしながらPC同士、そしてPCとウルルの距離がさらに近づくように働きかける役目を果たしてくれました。

実はウルルが今回ついてきたのも、今後ウルルがらみで重大なシナリオ展開をするつもりだったので、ここでPC達に近づけさせ、親密度を上げておきたかったという魂胆がありました。

 

今回の自由探索は、大きく5つのエリアを時間が許す限り探索していく形になっています。まずはどのエリアを探索するか選択し、選択したエリアのフィールドをさらに細かく調べていく……といった流れ。今回で行くと、探索したのは森、洞窟、平原の3エリアでした。それぞれのフィールドには各種判定が設定されており、成功すれば情報やアイテムなどを手に入れることが可能です。

 

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↑ 5つのエリアと、そのうちの一つ「平原エリア」の詳細。平原エリアは6つのフィールドで構成されており、①から順に探索が可能となっている。

 

今回、この星振りが丘の森林には他所から流れ着いた強力な蛮族「ゴブリンシャーマン」が住み着き、その結果、森に元から生息していた獣たちが平原に押し出されてしまいました。その獣たちを見た人々が、危険な獣がうろついているとして討伐の依頼をだしてきた……というバックボーンが存在しています。そうとは知らず、星振りが丘に獣討伐にきた冒険者たちは、いくつかのエリアやフィールドを探索していく中で、獣の死体が転がっていたり、蛮族の痕跡をみつけることで、この星振りが丘に異変が起きていることを察知することができます。

実際、冒険者たちは平原に現れた獣たちを討伐し、様々な痕跡を見つけていくことで、元凶であるゴブリンシャーマンたちをみつけ、それを討伐しています。まさか勝てるとは思っていなかったのですが…… それはともかく、森から追い出された獣(熊)を倒した冒険者たちは、その熊が必死に守ろうとしていた子熊をみつけ、結果的にそれを保護したり(ここはPC同士で異なる意見がでて、非常に面白かった。詳しくはログ参照)依頼完遂に必要なものを集めながら、少しずつそれぞれの距離感をつめ、最終決戦であるゴブリンシャーマン戦へと挑み、これを討伐したのでした。

因みに、今回は洞窟の一部、平原、森の3エリアまでしか調査できませんでしたが、川や湖に行くと専用のイベントが発生していました。川にいくと水浴びイベント、湖にいくと妖精たちと遊ぶことができます。どちらもお遊び用のイベントで、PC間の関係性強化につなげるために用意させてもらってます。けっしてGMが水浴びイベントが見たいとかそういうわけじゃありません。

 

◆戦闘について

今回、実は3回戦闘があったんですよね。すべてのエリアで4か所戦闘を用意していたので、大半を撃破したことになります。すごいですね…

1回目の戦闘は平原での獣たちとの戦闘。これはギルドから討伐依頼が出されていたものになるので、ほぼ必須の戦闘となっていました。この戦闘では

ウルフ(Lv1)×3、パックリーダー(Lv3)×1、それに手傷を負ったグリズリー(Lv5)×1が出現します。ウルフとパックリーダーはルルブⅠからそのままに、グリズリーはLv5相当にステータスを弱体化させ、HPも39点と低めに設定しています。

2回目の戦闘は森での植物系モンスターとの戦闘。植物系ってあんまり出す機会ないんですよね、そういえば。この戦闘では

ダンシングソーン(Lv3)×2、オーバーイーター(Lv4)×1が登場!ダンシングソーンはルルブⅠの454頁ですが、オーバーイーターさんはSW2.0からの登場となっています。木の幹とかに擬態して、通り過ぎる哀れな犠牲者を丸のみにする恐ろしい植物系モンスターですね。詳しくはバルバロステイルズ86頁か、SW2.0のルルブⅡ258頁を参照ください。

そして今回の、ポジション的にはボス戦となっているのが、森の奥深くに住み着いてしまった蛮族たち。実はここの戦闘、回避を推奨した戦闘だったのですが、果敢に挑み勝利を勝ち取ってくれました。正直、まさか勝てるとは思っていなかったのでビビりましたね。ここでの敵は

ゴブリン(Lv2)×4、ゴブリンシスター(Lv3)×1、ゴブリンシャーマン(Lv5)×1という殺意MAXな敵構成。ゴブリンはルルブⅠに掲載されており、ゴブリンシャーマンはサプリメント「モンストラスロア(ML)」に掲載されているモンスターですが、当時はまだ発売されていなかったため、SW2.0より「バルバロステイルズ(BT)」から登場しております。ゴブリンシスターもBTからですね。というか、なぜかシスターだけMLのってないのね……

なお、シスターとシャーマンは、SW2.0時代から恐れられるレベル詐欺モンスター(までは言いすぎか?)の一つ。レベル的にだいたいLv3~4の冒険者の前に現れることがほとんどなのですが、同格またはそれ以上の魔法を扱うため、想像以上の脅威となりえます。実際、今回の戦いでもGMの出目が大変良く、シスターの放ったフォースが回転したりと大変なことになりました。魔法は怖い。

 

◆まとめ

今回のシナリオでは、PC達の関係性強化に主眼をおいたシナリオ運びとなりました。一緒に馬車に乗って移動し、広大なフィールドを探索し、日が暮れれば野営の準備をして焚火のもとでささやかな食事を共にとる……それぞれのことを語り合ったり、ウルルの問いかけに答えたりと、ちょっとは仲が進展したかな……?

なお、確かこの時も時間は超過していたような。相変わらず時間管理はダメダメですね。今回に関していえば、戦闘がかなり重かったと思われるため、これ以降は1シナリオ2回に戦闘を治めようと頑張ったはずです(朧げ)

ちょっとずつお互いのことをしり、ウルルとの中を深め、森で殺してしまった親熊の代わりに子熊を保護し……すこしずつ様々な世界に関わっていく冒険者たち。そんな冒険者たちを待ち受けるのが、悪意に満ちた世界の一端。次回は奈落の魔域のお話になっていきます。

 

300年目の英雄譚_「幕間:旧き冒険者と、新たなる冒険者」

こんにちは、とたけです。

今回は、実際のCP中に展開した幕間のお話。というか、そもそも幕間とはなんぞや? といった感じかもしれません。本CP「300年目の英雄譚」においては、シナリオやキャンペーン内で語られなかった、もしくは語り切れなかった設定を公開する「設定補完」の場として運用していました。

が、それ以外にもシナリオではできなかったPC同士の掛け合いや、NPCとの交流、PCの過去話や、日常のワンシーンなど、様々なキャラクターたちの「一面」を描いた場となっています。まぁ要するにエモい文章ってことです。

そしてこの幕間なのですが、GMとPLがエモボールを投げ合いまくった結果、CPを通して大量に存在しています。短いものから長いものまで含めれば、全部で110本(数え間違えてなければ)の物語がシナリオ外に存在しているのです。ここでは、その幕間を公開していきたいと思います。

 

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筆者:GM/とたけ 「序幕:呪いと祝福の大地に導かれし者」の後の話。

「幕間:旧き冒険者と、新たなる冒険者

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大通りに面した窓から、中天に登ろうとする太陽の日差しが差し込んでいる。
窓にかけられたカーテンの隙間から、日差しはうっすらと暗い部屋を照らし出す。
絨毯の敷かれた部屋には、木製の衣装棚や意匠の凝らされた姿見、
手帳が置きっぱなしになっている机があり
清潔なシーツの敷かれたベッドには、静かに寝息を立てて眠る少女がいた。

膝を抱え込むようにして丸まった少女は、毛布にくるまりながら眠りについている。
薄い金色の髪は、太陽の日差しをうけ煌めきながらシーツの上に投げ出されており、あちこちに寝ぐせが付いている。
髪の隙間からは、同じように金色の毛並みを持った狼の耳が、少女の寝息に合わせてゆっくりと上下している。
少女が小さな寝言を言いながら、ころんと寝返りをうつ。
肩からずり落ちはだけた白いワンピース、その腰のあたりに入れられた切り込みからは
ふわふわと可愛らしい、金色の狼のしっぽが顔をのぞかせている。
小さな声が漏れ、少女の目がゆっくりと開く。
夏の日の青空のような、蒼い瞳。
白い肌によく映える、美しい瞳は眠たげな様子で自室を眺めている。

少女は寝ぐせの付いた髪を揺らしながら、ゆっくりと上体を起こす。
はだけた白いワンピースから覗く肌は白く、華奢な体つきが服の上からでも見える。
まだ幼い四肢を投げ出すようにして、少女はしばし眠気の余韻に浸っている。

しばらく余韻に浸ると、ベッドからゆっくりとおり
机の上の手帳を手に取る。
しおりが挟まれたその手帳を慣れた手つきで開き、一番新しい頁を開く。
手帳には小さな文字で、事細やかに「お話」が綴られている。
綴られているのは、少女の知る名もなき冒険譚の数々。
冒険から戻ってきた冒険者たちから、冒険譚を聞き書き記していったものだ。
深い森の奥で、美しい幻獣たちと出会った話も
蛮族たちの野営地で、恐ろしいドレイクと戦い抜いた話も
どこまでも広がる砂漠で、どこまでも深く、暗い奈落の魔域を攻略した話も……
彼ら冒険者たちが、命を懸けて体験した多くの冒険譚が
少女のもつ一冊の手帳に、書き留められている。

そして少女自身、それらの冒険譚に登場することになるとは、夢にも思っていなかった。
最も新しく書かれた冒険譚には、「新たな冒険者」たちから聞き
少女自身が体験した冒険譚が書かれている。
少女はぱたんと手帳を閉じ、机の引き出しに丁寧にしまう。
そのままゆっくりと、姿見に立ち自身の身体を鏡に映す。

まだ少し、震える手先で
ゆっくりと自身の首を触り、確認する。

───やっぱり、何も残ってない。

安堵したように、手を下ろしまじまじと自身の首を見る。
つい一日前には、この白く細い首には武骨で血なまぐさい首輪が掛けられ
つなげられた鎖が、少女のすべてを握っていた。

首輪をはずそうともがいたときの首の傷も、指先から流れ出た血も
激しく殴打され、全身についた傷すら何一つ残っていない。
冒険者の中でも、治癒に長けた魔法をもつ者たちが
少女の身体を癒したのだ。
まるで悪い夢であったかのように、悪夢の証拠はきれいに無くなっていた。
悪夢を思い返し、心臓はどくどくと脈打っている。
ゆっくりと静まり返った空気を吸い、心を落ち着かせる。
……大丈夫、自身にそう言い聞かせ少女ははだけた服のまま、部屋の扉を開いた。

扉を開けた先は父の部屋につながっており
既に目が覚め、起きていた父はソファに座っていた。

「あぁ、おはよう。ウルル」
「昨日は随分遅くまで騒いじゃったから、もっと遅くまで寝ていてもよかったのに」
と、ウルルと同じように狼の耳としっぽを持つ、リカントの男性
───少女の保護者であるガルフが、ウルルと呼ばれた少女に声を掛ける。

ウルルはううん、と首を横に振りながら父であるガルフの隣に腰かける。
「こらこら、起きてくるならちゃんと服装を直しなさい」
「それに髪もすごい寝ぐせだよ、ウルル。こっちにおいで」
と、彼は自身の膝をぽんぽんと叩く
ウルルは立ち上がり、軽く服装を整えるとガルフの膝の上に座る。
ガルフは置いてあったヘアブラシをとり、少女の髪を梳き始める。
「……もう大丈夫かい、ウルル」
ガルフは髪を梳きながら、ゆっくりとウルルに囁く。
ウルルは前を見ながら、少し間をおいてこくりと縦に頷く。
「ウルルは強い子だね……、でも本当に怖いときは、怖いって言ってもいいんだよ」
ガルフがそういうと、ウルルは髪を梳かれながら口を開く。
「……もう、おとーさんに会えないかもって思った……」
小さな声でそうつぶやくと、ふるふると体が震えだす。
声を出せば出すほど、目の奥が熱くなってくる。
「……もう、ギルドの皆とっ……あえない…っかもっ…って」
話せば話すほどに、涙と嗚咽が混じり言葉の最後は上手くしゃべれない。

ガルフは髪を梳くのをとめ、ウルルに手を回し力強く抱き上げる
くるりと振り向かされたウルルの目からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
ガルフは何も言わずに、ウルルの背中に手を回し力強く抱きとめる。
まるで決壊した堤防のように、とめどなく涙が押し寄せ
嗚咽を漏らし、涙で顔を濡らしながらウルルは父の胸に抱かれ、慟哭する。
どれぐらいの時間が経ったろうか。
ガルフはウルルを胸に抱きとめながら、彼女の髪を梳いている。
ウルルはガルフの胸に顔をうずめながら、静かに髪を梳いてもらう。
ウルルの鼓動と、高い体温が伝わってくる。
ブラッシングが終わると、ウルルはゆっくりと顔をあげ、父の瞳を見つめる。
彼のシャツを握りながら、しかし先ほどとは異なり強い意志を感じる瞳で。

「……ねぇ、おとーさん。 ウルルも冒険者になれるかな?」

その問いかけに、ガルフは驚いたような表情で、ウルルの瞳を見つめ返す。
しばらくの静寂のあと、ガルフはゆっくりと口を開く。
「……ずっと昔、ボクがまだ冒険者じゃなかったとき」
冒険者登用をするために向かったギルドの前で、ウルルと同じことを思ったのさ」
「……ボクたち冒険者は、依頼を受けたらそれがどんな内容でも責任を負わなくちゃならない」
「時には、常識はずれの生き物を相手に、自分の身一つで戦うこともある」
「死ぬような怪我を負うこともあるし……何人もの友を見送ってきた」
ガルフは目の前の少女の瞳を覗く。
戸惑い、恐怖、不安、そして強い憧れ……様々な感情がその瞳には渦巻いている。
「でも、それでも僕たち冒険者が冒険を辞めないのは、その果てにあるものが見たいからさ」
「瞳の輝きは、その憧れの眼差しは誰にも止められない……ウルルの眼差しは憧れの眼差しだ」
ガルフはそういうと、ウルルを力強く抱きしめる。
戸惑うウルルをよそに、瞳を閉じたガルフはしっかりと言葉を告げる
「……冒険者になるなら、しっかりとした基礎鍛錬と、お勉強をしないとね。ウルル」
「ありがとう、おとーさん……!」
父の言葉に驚き、そして喜びを隠せない少女は、ぱたぱたとしっぽを振りながら、ガルフに抱き着く。
「はは、ウルルはすぐに尻尾に感情がでるねぇ」
「それはおとーさんもでしょ!!」
そういいながらウルルが指さす先には、同じくはたはたと揺れるガルフのしっぽがある。
「ばれてたか……」
ガルフは苦笑しながら、ウルルを抱きかかえ絨毯の上に立たせる。
「さぁて、もう遅いけど朝ご飯を食べに行こうか。おなかペコペコなんだ」
ガルフが伸びをしながら立ち上がると
「あ、じゃあウルル、昨日の冒険者さんたちも呼んでくるね!」
と言い、勢いよく部屋の扉をあけ、外へ駆けていく
「あぁ!? こらウルル! そんなかっこで外にでちゃいけません!!」
あわててガルフも飛び出し、ウルルを追って廊下を駆け出していく。

今日もまた、“月夜の狼亭”に二人の足音が元気よく響き渡る。
旧き冒険者と、今度は新しい冒険者の足音が。

FIN
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Picrew ななめーかーよりトロロ様

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https://picrew.me/image_maker/13338

Picrew ストイックな男メーカーより やすばる様

300年目の英雄譚_NPC紹介その1

こんにちは、とたけです。

前回の記事に引き続き、今回はちょっとしたNPC紹介記事。
このキャンペーンでは70キャラクター以上のNPCが登場していますが、ちゃんと触れられたことがなかったので、主要なキャラクターだけでもまとめておこうと思います。そしてこれが、その第一弾。

 

◆ウルル・ローラン

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https://picrew.me/image_maker/41329

Picrew ななめーかーよりトロロ様

yutorize.2-d.jp

●概要

「300年目の英雄譚」にて、一番最初に登場し、一番最後まで登場し続けたキャラクター。ハイイロオオカミリカントの少女で、本来の親を「嵐の季節」と呼ばれる蛮族たちが引き起こした戦災にて失っています。その後、当時冒険者だった“ガルフ”という名前のリカントに赤子のときに拾われ、それ以降、“ガルフ”のことを本当の父親のように思いながら成長していきます。非常に活発で、純真無垢な少女として活躍し、冒険者たちに問いかけをなげることなどもありました。

●CPにおける役割

「PCたちの背中を追う存在」「成長するもの」

CPにおいては、一番最初は人さらいに攫われ、命の危機に瀕したところをPC達に助けてもらうなど「守られるもの」としての立ち位置ですが、話数を重ねるごとに成長し、最終的にはPC達と共に戦場に立つ「守るもの」へと変わっていきます。PC達の存在を追いかけ、徐々に成長していくキャラクターとして描かれています。
●こぼれ話

実はものすごく表情差分がおおい。あまり使われていない立ち絵もあったりしました。序幕にて殺害されてしまった場合、その後のシナリオでは「守れなかった存在」として亡霊的に視界や記憶の節々に登場させる計画などもあったのですが、その世界線は回避されたようです。

なお、上に貼ってありますが、きちんと戦闘データを保持している稀有なNPCです。父親、ガルフの系譜をたどり「防具習熟/非金属」の戦闘特技を習得しつつ、全力攻撃や薙ぎ払いを習得していく予定でした。メインクラスはファイターで、サブクラスにレンジャーを習得しています。

途中、シナリオ分岐で一時的に学園物に派生していくパターンや、数年後の未来へ時系列をすっとばす構想があったのですが(最終的にすべて没にした)その場合は下級生になったり、ギルドマスターを継いだn年後のお姉さんウルルというのを作製していた時期もありました。いつかお目見えするときがくるのでしょうか……

 

◆ガルフ・ローラン

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https://picrew.me/image_maker/13338

Picrew ストイックな男メーカーより やすばる様

 ●概要

上記、ウルル・ローランの保護者にして、冒険者ギルド“月夜の狼亭”のギルドマスターです。ハイイロオオカミリカントの男性で、かつては“始まりの剣級”を所持する屈強な冒険者でした。しかしながら、6年前に起きた「嵐の季節」と呼ばれる蛮族軍の大攻勢で、蛮族軍団の首領を打ち取る大きすぎる成果を出したものの、壊走していく無数の蛮族たちが周辺の村を襲う二次被害が拡大。結果として多大な被害を引き起こしてしまったことに責任を感じ、剣を置いてしまいます。また当時、戦災孤児である”ウルル”と出会い、前線から退き、後進の育成に励むようになりました。

ギルドマスターとしてもっとも近い位置でPC冒険者たちと接し、彼らを裏から支えてくれます。時には厳しいことを言ったり、冒険の力になってくれたりと直接的なサポートも行ってくれます。お人好しな性格で、頼まれればよっぽどのことがない限り、引き受けてくれますが、何をおいても娘のウルルを基準に行動する癖があります。

かつて英雄と呼ばれた存在として、PC冒険者たちが新しい時代の英雄となった時、その在り方を問いかけることもありました。

●CPにおける役割

「先の時代の英雄」「超えていくための障害」

CPにおいては、もっとも序盤からPC冒険者たちと接し、サポートを行ってくれます。物語が進むことで、彼自身強大な力を持った元英雄であることが判明し、「先の時代の英雄」であったことが見えてきます。そんな中、PC冒険者たちも力をつけていき、英雄へと駆けのぼっていく時、“英雄”としての一つの在り方を示し、「超えていくための障害」として立ちふさがる役割を持っていました。

再序盤から付き合っていて、その力をよく知るPC達が、その力を超えていくことで、自身の力を再確認するための契機としています。

●こぼれ話

実際のデータを実は仮組していたのですが、エネミーデータに起こす際に経験点とか考えてやると非常に面倒くさいことが判明したので没にしています。一応、データ的には「防具習熟/非金属」を主軸に取り進めたファイター・スカウトの前衛軽戦士となっています。あまった経験点でソーサラーを取得し、「ブリンク」や各種探索に有用な魔法を使って斥候として働く感じです。

拾われていない設定としては、過去の英雄時代には“灰色の英雄”と呼ばれ、「ムーンライト」という冒険者パーティーで前衛斥候を務めている設定がありました。4人の冒険者パーティーで、リカントで前衛斥候の「ガルフ」、リルドラケンで前衛重戦士の「ドラン」、人間の後衛神官「レティア」、エルフのマギテックシューター「バレル」の4人組です。それぞれに「色」に関連する通り名を持っています。彼らは10年近く、テラスティア大陸の各地を冒険し、その勇名を馳せ、「嵐の季節」での蛮族軍団首領を打ち取ったことで、“始まりの剣級”の称号を得ました。

その後、前述した敗走する蛮族たちの二次被害によって、大きな損害を出したことをきっかけにガルフが冒険業をやめ、英雄たちの冒険者パーティー「ムーンライト」は解散となります。散り散りになったメンバーは、大陸の各地で現在もソロで活動を続けていることとなっています。尚、レティアだけはCP内に登場しています。

また、このキャラクターは今回のCPが初出ではなく、過去の私の単発シナリオ(「わたしのえいゆうさんへ」「魔霧に沈む、獣の陰は」「白き煙と黒鉄の道」など)に登場している“月夜の狼亭”というギルドでもギルドマスターを行っています。意外とあちこち出してるお気に入りのキャラクターなのでした。

300年目の英雄譚_「序幕:呪いと祝福の大地に導かれし者」ふりかえり!

こんにちは、とたけです。
2020年も終わり、2021年になっていました。今回は、CPの一番最初の話を振り返っていきたいと思います。といっても、細かな話というよりかは、GMサイドのこぼれ話。

 

◆ざっくりシナリオ振り返り

今回の「序幕」、このCPの導入部分となりますが、ブレイザ・ジュリアめい・エアルのそれぞれ二人組が、“導きの港”ことハ―ヴェス王国にて出会い、とある事件に巻き込まれていく……という流れになっており、そこから冒険者への道を歩みだすような流れを取っています。

ざっくりと序幕の流れは

・ブレイザ・ジュリア、めい・エアルの二人組ペアの導入シーン

・二人組ペアが合流、路地裏に少女が人さらいに連れていかれるシーンを目撃

・路地裏にて人さらいと戦闘、しかし攫われた少女は別の人さらいたちによってどこかへと連れていかれてしまう

・街の探索をしつつ、冒険者ギルドと接触

・攫われた少女“ウルル”の救出を正式に依頼として受諾

・人さらいのアジトへ突入

・人さらいのBOSSと戦闘

といった流れ。見てわかる通り、かなりイベントが多く初回ということもあって8時間想定が11時間程度まで伸びに伸びた記憶があります……

このシナリオにおいての重要なキーとして、攫われた少女”ウルル”の存在があります。この少女はこの後のシナリオにも割と重要な存在として現れ、最終的には冒険者たちの後輩となります。

ただし、このシナリオには時間制限が存在しており、もし制限時間内に救出できなかった場合、少女“ウルル”は死亡する展開となっていました。もちろん死亡した場合、この後のシナリオにウルルが登場することはありません。少女の死の影がまとわりつくことはあるでしょうが。

実際にはPC達は少女の救出に成功し、この後のシナリオにもきちんと登場してくれました。よかったね、ウルルちゃん。もし死亡していたらまったく異なるキャンペーンの展開となっていたことでしょう。そして、もう一つ重要なNPCとも接触しています。その少女ウルルの保護者であり、このCPの冒険者ギルドのギルドマスターを務めているのが“ガルフ”と呼ばれるリカントの男性です。このシナリオで、まだ冒険者ではないPC達に救出の依頼を出した張本人ですね。

攫われた少女ウルルを通じて、冒険者ギルドや犯罪者組織とのつながりをつくり、CPの拠点となるハ―ヴェス王国への知見を深めるのがこのシナリオでの目的でした。

 

町への知見を深めるため、今回のシナリオでは街の探索も含まれており、ハ―ヴェス王国の一部分を舞台に様々な判定を行って探索をする内容となっています。実際には、下に貼った簡易地図を元に、それぞれのエリアを探索していきます。それぞれのエリアには必要な探索判定が設定されており、判定を成功させることで、様々な情報が得られる仕組みになっています。それら判定を実施した時点で、一定時間経過し、シナリオ内の時間が進む仕組みになっています(そして制限時間がどんどん削られていく)

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因みに、今回のCPではハ―ヴェス王国でも南部のエリアに冒険者ギルドやPC達がお世話になるような施設を集中させています。実はこのシナリオ作ってる段階で、ハ―ヴェス王国の作りがよくわかっていなかったんですよね。後々、公式からハ―ヴェス王国の詳細な地図が出て、ぜんぜん違うじゃん! と驚いた記憶があります。基本ルルブにのせてくれないかなぁ……

 

上の簡易地図や探索方法をみて気が付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、この形式はソードワールド2.5リプレイ、「水の都の夢見る勇者」シリーズを意識しています。ソードワールド2.5のリプレイの中でも読みやすくとても面白いので、まだ読んでいない方がいらっしゃれば是非読んでみてもらいたいですね!

fujimi-trpg-online.jp

※ちなみに私はラティ推しです。

 

◆戦闘について

今回のCPを始めるにあたって、開始前に「どれぐらいの難易度がいいですか?」と聞いたところ、難し目でと回答があったので、「とりあえず全力で投げてみるか」と投げたのが序幕でした。結論から言うとやりすぎました。よく死ななかったなぁ…

 

最初の雑魚戦闘はルルブⅠ471頁の「匪賊の雑兵」をベースに
クロスボウを装備した遠距離戦タイプが2体(Lv2)
通常通り剣を装備した近距離戦タイプが2体(Lv2)

そして中ボス的扱いでルルブⅠ471頁の「腕利きの傭兵」をLv4までレベルダウンさせた
腕利きの傭兵が1体(Lv4)

という、5体との複数戦闘。腕利きの傭兵はそのまま出すと強すぎるので、各種パラメータを下げ、打撃点を-4、「💬手早い斬撃」を削除した弱体化バージョンですね。これでも結構腕利きさんは強かった……! さすが腕利き。

 

そして問題のボス戦ですが、先ほどの匪賊の雑兵数体と一緒に、人さらいの首領に化けているレッサーオーガ(Lv5)が登場します。ただのレッサーオーガであればぎりぎり何とかなるのですが、このレッサーオーガ、特殊な個体で独自の能力を付与しており、そのうえ剣のかけらで強化しています。今思うと滅茶苦茶殺意高くて笑いますね。

能力的には

▶真語魔法5レベル/魔力8(15)
◯▶💬魔法適正
戦闘特技《ターゲッティング》《ワードブレイク》

そして、特殊な能力である

▶大喰らい
自身の存在する乱戦エリア、および近接攻撃の及ぶ範囲内にいる【気絶】【死亡】または能動的に行動のとれない対象、味方のキャラクターに対して、捕食行動をとります。
捕食された対象は即座に10点の確定ダメージを受け(【死亡】の場合は効果はありません)HPが0以下になった場合、生死判定を振ります。
大喰らいが発動すると、3分間(18R)の間、あらゆる行為判定に+1のボーナス修正を受け最大HPと現状HPが即座に10点上昇します。この効果は3回まで重複します。
一度でも大喰らいの対象にされたものは、次回以降の対象になりえません。
また、この効果は連続した手番では使用できません。

という主動作行動を行ってきます。そう、味方を食べてもりもり強化されるエネミーなのです。そして、一番悪意が高い点が、このシナリオで救うべき対象であるウルルちゃん、戦闘エリアに存在しています。それもこのボスの手の届くところに。つまるところ、さっさと倒さないと倒れているNPCであるウルルが喰われるという状況でした。今思うと酷い話ですね、はは。

 

◆まとめ

一番最初の話は、街の探索アリ、戦闘2回、NPCとの会話と交流といろんな要素を詰め込んでいて、結果的に時間を大幅に超過していました。これ以降、徐々に見直しを実施していますが、これ以降でも何回か時間調整をミスっています。難しいね…

このシナリオでの目的であった「攫われた少女ウルルを通じて、冒険者ギルドや犯罪者組織とのつながりをつくり、CPの拠点となるハ―ヴェス王国への知見を深める」という部分は、おおむね達成できていたのでヨシとしましょう。

 

と、ざっくりこんな感じで振り返って行けたらなぁ…正直完走できる気はしませんが、暇な時にまた書いていきたいと思います!

300年目の英雄譚 振り返ってみて

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こんにちは、ご覧いただいてありがとうございます。とたけです。
今回は、ソードワールド2.5・自作キャンペーンシナリオ『300年目の英雄譚』を振り返ってみようかと思います。一話一話を細かく振り返るととんでもなく時間がかかるので、ひとまずは全体の振り返り……

 

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300年目の英雄譚_序幕……その前の、前日譚。②

どうもこんにちは、とたけです。
この記事を書いている現在、なんとすでに『300年目の英雄譚』のキャンペーン終了しております。本当にお疲れ様でした!!(記事を書くのが遅すぎる)

というわけで、ここから先の記事は全て振り返りやまとめのようなものになっていきます。本格的なまとめはまだできてませんが……

そして、今回はこちらの記事の続き。このキャンペーンの入り口、序幕にあたる前のお話でめいエアル低身長レプラカーンと高身長ナイトメアのコンビ結成のお話!

300年目の英雄譚_序幕……その前の、前日譚。① - 月夜の狼亭

 

なお、PC&PLさんについては、こちらの記事をどうぞ!

SW2.5 300年目の英雄譚について - 月夜の狼亭

 

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