月夜の狼亭

TRPG活動に関してのあれこれを書き残すための場。SW2.5自キャンペーン「300年目の英雄譚」に関して中心となります。

300年目の英雄譚_「幕間:旧き冒険者と、新たなる冒険者」

こんにちは、とたけです。

今回は、実際のCP中に展開した幕間のお話。というか、そもそも幕間とはなんぞや? といった感じかもしれません。本CP「300年目の英雄譚」においては、シナリオやキャンペーン内で語られなかった、もしくは語り切れなかった設定を公開する「設定補完」の場として運用していました。

が、それ以外にもシナリオではできなかったPC同士の掛け合いや、NPCとの交流、PCの過去話や、日常のワンシーンなど、様々なキャラクターたちの「一面」を描いた場となっています。まぁ要するにエモい文章ってことです。

そしてこの幕間なのですが、GMとPLがエモボールを投げ合いまくった結果、CPを通して大量に存在しています。短いものから長いものまで含めれば、全部で110本(数え間違えてなければ)の物語がシナリオ外に存在しているのです。ここでは、その幕間を公開していきたいと思います。

 

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筆者:GM/とたけ 「序幕:呪いと祝福の大地に導かれし者」の後の話。

「幕間:旧き冒険者と、新たなる冒険者

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大通りに面した窓から、中天に登ろうとする太陽の日差しが差し込んでいる。
窓にかけられたカーテンの隙間から、日差しはうっすらと暗い部屋を照らし出す。
絨毯の敷かれた部屋には、木製の衣装棚や意匠の凝らされた姿見、
手帳が置きっぱなしになっている机があり
清潔なシーツの敷かれたベッドには、静かに寝息を立てて眠る少女がいた。

膝を抱え込むようにして丸まった少女は、毛布にくるまりながら眠りについている。
薄い金色の髪は、太陽の日差しをうけ煌めきながらシーツの上に投げ出されており、あちこちに寝ぐせが付いている。
髪の隙間からは、同じように金色の毛並みを持った狼の耳が、少女の寝息に合わせてゆっくりと上下している。
少女が小さな寝言を言いながら、ころんと寝返りをうつ。
肩からずり落ちはだけた白いワンピース、その腰のあたりに入れられた切り込みからは
ふわふわと可愛らしい、金色の狼のしっぽが顔をのぞかせている。
小さな声が漏れ、少女の目がゆっくりと開く。
夏の日の青空のような、蒼い瞳。
白い肌によく映える、美しい瞳は眠たげな様子で自室を眺めている。

少女は寝ぐせの付いた髪を揺らしながら、ゆっくりと上体を起こす。
はだけた白いワンピースから覗く肌は白く、華奢な体つきが服の上からでも見える。
まだ幼い四肢を投げ出すようにして、少女はしばし眠気の余韻に浸っている。

しばらく余韻に浸ると、ベッドからゆっくりとおり
机の上の手帳を手に取る。
しおりが挟まれたその手帳を慣れた手つきで開き、一番新しい頁を開く。
手帳には小さな文字で、事細やかに「お話」が綴られている。
綴られているのは、少女の知る名もなき冒険譚の数々。
冒険から戻ってきた冒険者たちから、冒険譚を聞き書き記していったものだ。
深い森の奥で、美しい幻獣たちと出会った話も
蛮族たちの野営地で、恐ろしいドレイクと戦い抜いた話も
どこまでも広がる砂漠で、どこまでも深く、暗い奈落の魔域を攻略した話も……
彼ら冒険者たちが、命を懸けて体験した多くの冒険譚が
少女のもつ一冊の手帳に、書き留められている。

そして少女自身、それらの冒険譚に登場することになるとは、夢にも思っていなかった。
最も新しく書かれた冒険譚には、「新たな冒険者」たちから聞き
少女自身が体験した冒険譚が書かれている。
少女はぱたんと手帳を閉じ、机の引き出しに丁寧にしまう。
そのままゆっくりと、姿見に立ち自身の身体を鏡に映す。

まだ少し、震える手先で
ゆっくりと自身の首を触り、確認する。

───やっぱり、何も残ってない。

安堵したように、手を下ろしまじまじと自身の首を見る。
つい一日前には、この白く細い首には武骨で血なまぐさい首輪が掛けられ
つなげられた鎖が、少女のすべてを握っていた。

首輪をはずそうともがいたときの首の傷も、指先から流れ出た血も
激しく殴打され、全身についた傷すら何一つ残っていない。
冒険者の中でも、治癒に長けた魔法をもつ者たちが
少女の身体を癒したのだ。
まるで悪い夢であったかのように、悪夢の証拠はきれいに無くなっていた。
悪夢を思い返し、心臓はどくどくと脈打っている。
ゆっくりと静まり返った空気を吸い、心を落ち着かせる。
……大丈夫、自身にそう言い聞かせ少女ははだけた服のまま、部屋の扉を開いた。

扉を開けた先は父の部屋につながっており
既に目が覚め、起きていた父はソファに座っていた。

「あぁ、おはよう。ウルル」
「昨日は随分遅くまで騒いじゃったから、もっと遅くまで寝ていてもよかったのに」
と、ウルルと同じように狼の耳としっぽを持つ、リカントの男性
───少女の保護者であるガルフが、ウルルと呼ばれた少女に声を掛ける。

ウルルはううん、と首を横に振りながら父であるガルフの隣に腰かける。
「こらこら、起きてくるならちゃんと服装を直しなさい」
「それに髪もすごい寝ぐせだよ、ウルル。こっちにおいで」
と、彼は自身の膝をぽんぽんと叩く
ウルルは立ち上がり、軽く服装を整えるとガルフの膝の上に座る。
ガルフは置いてあったヘアブラシをとり、少女の髪を梳き始める。
「……もう大丈夫かい、ウルル」
ガルフは髪を梳きながら、ゆっくりとウルルに囁く。
ウルルは前を見ながら、少し間をおいてこくりと縦に頷く。
「ウルルは強い子だね……、でも本当に怖いときは、怖いって言ってもいいんだよ」
ガルフがそういうと、ウルルは髪を梳かれながら口を開く。
「……もう、おとーさんに会えないかもって思った……」
小さな声でそうつぶやくと、ふるふると体が震えだす。
声を出せば出すほど、目の奥が熱くなってくる。
「……もう、ギルドの皆とっ……あえない…っかもっ…って」
話せば話すほどに、涙と嗚咽が混じり言葉の最後は上手くしゃべれない。

ガルフは髪を梳くのをとめ、ウルルに手を回し力強く抱き上げる
くるりと振り向かされたウルルの目からは、大粒の涙が零れ落ちていた。
ガルフは何も言わずに、ウルルの背中に手を回し力強く抱きとめる。
まるで決壊した堤防のように、とめどなく涙が押し寄せ
嗚咽を漏らし、涙で顔を濡らしながらウルルは父の胸に抱かれ、慟哭する。
どれぐらいの時間が経ったろうか。
ガルフはウルルを胸に抱きとめながら、彼女の髪を梳いている。
ウルルはガルフの胸に顔をうずめながら、静かに髪を梳いてもらう。
ウルルの鼓動と、高い体温が伝わってくる。
ブラッシングが終わると、ウルルはゆっくりと顔をあげ、父の瞳を見つめる。
彼のシャツを握りながら、しかし先ほどとは異なり強い意志を感じる瞳で。

「……ねぇ、おとーさん。 ウルルも冒険者になれるかな?」

その問いかけに、ガルフは驚いたような表情で、ウルルの瞳を見つめ返す。
しばらくの静寂のあと、ガルフはゆっくりと口を開く。
「……ずっと昔、ボクがまだ冒険者じゃなかったとき」
冒険者登用をするために向かったギルドの前で、ウルルと同じことを思ったのさ」
「……ボクたち冒険者は、依頼を受けたらそれがどんな内容でも責任を負わなくちゃならない」
「時には、常識はずれの生き物を相手に、自分の身一つで戦うこともある」
「死ぬような怪我を負うこともあるし……何人もの友を見送ってきた」
ガルフは目の前の少女の瞳を覗く。
戸惑い、恐怖、不安、そして強い憧れ……様々な感情がその瞳には渦巻いている。
「でも、それでも僕たち冒険者が冒険を辞めないのは、その果てにあるものが見たいからさ」
「瞳の輝きは、その憧れの眼差しは誰にも止められない……ウルルの眼差しは憧れの眼差しだ」
ガルフはそういうと、ウルルを力強く抱きしめる。
戸惑うウルルをよそに、瞳を閉じたガルフはしっかりと言葉を告げる
「……冒険者になるなら、しっかりとした基礎鍛錬と、お勉強をしないとね。ウルル」
「ありがとう、おとーさん……!」
父の言葉に驚き、そして喜びを隠せない少女は、ぱたぱたとしっぽを振りながら、ガルフに抱き着く。
「はは、ウルルはすぐに尻尾に感情がでるねぇ」
「それはおとーさんもでしょ!!」
そういいながらウルルが指さす先には、同じくはたはたと揺れるガルフのしっぽがある。
「ばれてたか……」
ガルフは苦笑しながら、ウルルを抱きかかえ絨毯の上に立たせる。
「さぁて、もう遅いけど朝ご飯を食べに行こうか。おなかペコペコなんだ」
ガルフが伸びをしながら立ち上がると
「あ、じゃあウルル、昨日の冒険者さんたちも呼んでくるね!」
と言い、勢いよく部屋の扉をあけ、外へ駆けていく
「あぁ!? こらウルル! そんなかっこで外にでちゃいけません!!」
あわててガルフも飛び出し、ウルルを追って廊下を駆け出していく。

今日もまた、“月夜の狼亭”に二人の足音が元気よく響き渡る。
旧き冒険者と、今度は新しい冒険者の足音が。

FIN
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Picrew ストイックな男メーカーより やすばる様