月夜の狼亭

TRPG活動に関してのあれこれを書き残すための場。SW2.5自キャンペーン「300年目の英雄譚」に関して中心となります。

300年目の英雄譚 振り返ってみて

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こんにちは、ご覧いただいてありがとうございます。とたけです。
今回は、ソードワールド2.5・自作キャンペーンシナリオ『300年目の英雄譚』を振り返ってみようかと思います。一話一話を細かく振り返るととんでもなく時間がかかるので、ひとまずは全体の振り返り……

 

 

■PC/PLのみなさん

これはこちらの記事にも書いておりますが、改めてご紹介を!
SW2.5 300年目の英雄譚について - 月夜の狼亭

 

◆PC名:ジュリア・グラフィナ・アンダルシア/PL:はやみさん

このCPの主催でもあり、PLでもあるはやみさん!
とたけがTwitterで開催したSW2.5自シナリオ『わたしのえいゆうさんへ』のPL募集をしたときに知り合い、それからもご縁がありましてこのCPを始めるきっかけとなった方。PL探しや卓の日程など運営面でご協力いただいておりました!(というかほぼ丸投げてた)ありがとうございました!

PCのお話をちょっとだけ。ハ―ヴェス北部の森にあるエルフの里「アンダルシア」を出身にする「ジュリア」は、まさに風のようなキャラクターで、どこにいっても自然体なキャラクター性が魅力でした!
CPが始まってから終わるまで、そのスタンスは変わらず、まさに鋼のようなメンタル……はやみさん本人も仰っていたのですが、スタンスが変わらず不変とすることで、他のキャラクターの変化がより見える、そんな「基準」となるようなキャラ性を目指したそう。その通り、ジュリアがいたからこそ、めいやエアルの変化や、ブレイザの燃えるような闘志がより映えるものになったと思います。でも子どもにはやさしいのよね……とてもかっこいい、風のようにクールだけど暖かなPCでした!

◆PC名:ブレイザ=エズマイアス/PL:じゃっくさん

PLのじゃっくさん!
初対面はSW2.5自シナリオ『魔霧に沈む 獣の陰は』ですね。はやみさんからのご紹介で、今回PLとして参加していただきました。細かなデータ面のアドバイスや、特に戦闘時のHP管理などサブGM的なことなど、実際の卓実施時に大いにそのお力をお借りした方……HP管理すごく助かりました、ありがとうございました!

PCのお話を少しさせてもらうと、ジュリアが「風」なら「炎」な「ブレイザ」。二人が合わさりより強い「嵐」「焔」へと変貌する、ナイスなコンビ! そして戦いに戦いに、戦い!な、バトルジャンキーといっても過言ない猪突猛進なPCでしたね! 一体なんどクリティカルダメージに泣かされたことか……!! でも、鋭いセンスとある意味、誰よりも「仲間」を信じ、「敵」をも信じるその精神は、敵味方問わず非常に魅力的に見えるキャラクターでした!
その「私にもっと打ってこい!」なキャラと前衛ファイターということもあり、戦闘ではがつがつ殴られるので毎回立ち絵が血だらけに……でも、必ず最後は立っている。まさに英雄的なPCでした!

◆PC名:めい/PL:ベーゼンさん

PLのベーゼンさん!
ベーゼンさんも、とたけがTwitterで開催したSW2.5自シナリオ『魔霧に沈む 獣の陰は』でPLさんとして参加してくださったのが初対面。その後、はやみさんのご紹介あって本CPのPLとして、そして同時並行して開催されたSW2.5のキャンペーンシナリオ『デュエルワールド』GMとしても参加して/させていただきました。本当に感謝!ありがとうございました!

PCのお話。レプラカーンの女の子「めい」は温泉が大好き!過去の記憶を失っており、死にかけていたところを幻獣に助けられ、そしてなぜか関西弁と、いろいろぶっ飛んだ経歴をお持ちのかわいいチャイナ服レプラ少女。常に明るく、ツッコミ煌めく彼女で、どんなものでも、救えるのなら全て救う。と、非常に優しく英雄的で、そしてそれを現実にする力を兼ねそろえた力強さもあるPCでした! ある意味では一番シナリオを大きく変える力を秘めていたのかも…?
あと立ち絵が凄く多くてですね、ここぞ!というタイミングで笑い、泣き、喜び、怒りと表情と言動が誰よりもビビットな変化のあるPCでした!

◆PC名:エアル/PL:七葉さん

PLの七葉さん!
七葉さんは、はやみさんのご紹介で七葉さん卓にお邪魔させていただいたのが初対面。その後、本CPに参加していただきました。七葉さんも同じく、同時並行でSW2.5キャンペーン『魔導死骸区シリーズ』を開催していただき、そしてまさかのキャンペーン第二段『願いの果てに』が現在進行中だったりします。楽しく遊ばせてもらっております、二重の意味でありがとうございます!!

 PCのお話。ナイトメアの男の子「エアル」は、最初は自分自身を認められなかった彼が、周りに少しずつ認められ、次第に自身の在り方を見つけていく……成長が一番見られるキャラクターだったと思います。最初はめいちゃんに引っ張られるようにして、でもいくつもの旅や、冒険や、死線を潜り抜けて、最後はめいちゃんを引っ張っていく成長っぷり! あと、他の3人が英雄的気質に対して、一番一般人的感覚を持っていたPCでもありました。また、唯一の男性キャラクターということもあってか、ブレイザ・ジュリアが目に見えない絆で結ばれているのだとしたら、めいとエアルは見せ付けていく絆って感じで綺麗に分かれていたように思います。

 

以上4名のPLさんと、私、とたけGMを務めました。

■開催期間について

2019年6月2日、『序幕:呪いと祝福の大地に導かれし者』を初回として、2020年10月25日に行った『終幕:300年目の英雄譚』を最終回にした、全43セッション、シナリオ的には37話で構成された、長大なキャンペーンシナリオでした。
日曜日の朝9時半から始まり、1時間のお昼休憩と気まぐれな休憩時間を挟み、大体18時~19時頃(最初の頃はもっと超過してた)と一日卓。一日8時間のセッション時間としても、一人当たり約344時間かかる壮大なキャンペーンシナリオをさせていただきました。
総時間もさることながら、これだけの回数を1年半程度で実施したので、一か月あたり2~3回の開催と極めて高頻度であり、月によっては毎週開催と、割と過酷な日程でPLの皆さんを巻き込みながらキャンペーンをさせていただきました。
「え、ほんとに大丈夫皆……? もう3週続いてるけどほんとに大丈夫??」と開催しているGMが困惑するほどのバイタリティと驚異的な勢いで遊んでいただき……
本当にPLの皆さんにはご協力いただいて……ありがとうございました!!

今までにもキャンペーンシナリオのGMをやったことはありましたが、ここまで長期間かつ大規模なものはなく、そして今後もやることはないでしょう。
キャンペーンをやるにあたって一番の大きな障害となる『日程』という奴も、PLの皆さんのご協力、そしてなによりはやみさんの日程管理によって、大きな遅延なく信仰することができました。重ね重ねありがとうございます……

■キャンペーンについて

こちらの記事でも触れていましたが、この物語は「冒険譚」ではなく「英雄譚」をテーマにキャンペーンを展開しています。
SW2.5 300年目の英雄譚について - 月夜の狼亭

英雄として生まれ持って高い能力をもつPC達冒険者が、駆け出し冒険者としてギルドに加わり、幾つもの戦いや、他の冒険者との交流や、そして敵として出てくる者たちと衝突することで、英雄へと駆けあがり、最終的には神へと至る……そういったヒロイックなお話になっていたかなぁと思います。

そして同時に、冒険者たちの選ぶ「選択」を大きなテーマの一つにしています。冒険者たちの「選択」に応じて大きく物語を変えていったのも、キャンペーンならではの試みでした。本来であれば敵対するはずのキャラクターや、死亡する予定だったキャラクターがかなりメインどころに据えられたりと、割とGMの予想の斜め上を行く展開になったりしてとても面白かったですね!

あともう一つ、ソードワールドの世界において、一般的に冒険者たちは「人族」側のキャラクターとして「蛮族」側のキャラクターと相対することとなります。基本的に、このキャンペーンでもその対立構造は変わりません。ですが、ここに「人族」でも「蛮族」でもない、中間に位置するキャラクターが現れたとき、PC達冒険者はどのような選択を取るのか……という問いかけを、キャンペーン中幾度となく投げかけています。

所謂『良いゴブリン問題』みたいなやつですね。すぐに答えのでるものでもなく(PCのジュリア・ブレイザあたりは早々に自身の答えを確立していましたが)場合によってはPC同士の対立を生むような問いかけです。こういったものは、野良卓や単発では取り扱いにくく、一般的に危険物として扱われがちですが、長期のキャンペーン、信頼できるPLという環境だからこそ、シナリオに組み込むことが可能でした。

その結果、PCそれぞれに何を想い、どう変わっていったのか。何を変えずにいたのか、という部分がかなり色濃く描写され、成長が見えたんじゃないでしょうか。特にめいちゃんとエアル君のペアは、この成長の度合いがジュリア・ブレイザのペアに比べて色濃いものだったと思います。逆にジュリア・ブレイザはぶれない信念みたいなものがはっきりとあって、ジュリア・ブレイザとめい・エアルの2to2の組み合わせがより映えてとても好きでしたね……

 ■で、どんなお話だったの?

このキャンペーンを非常にざっくりとまとめると、次のようなお話でした。

3本の始まりの剣と、もう1本の始まりの剣「フォルトナ」が産み落とした、原初の生物にして、忘れ去られた旧き神々「始まりの獣」たち。そして、長い歴史の中で同様に歴史に埋もれた「フォルトナ」が、自身の担い手を選定するため、既存の枠を超えた新たなる人々を探し求めた結果、「暗躍するもの」を引き寄せる。
「始まりの獣」たちと、運命を司る始まりの剣「フォルトナ」。二つの歴史が動く時、再び新たな時代が到来する。PCである冒険者たちはそれを見届け、また止めるため、それらと関わっていく……
PC達冒険者はキャンペーンの中で、これらの巨大な力とうねりの中に巻き込まれて行きます。そして、その中で始まりの獣たちと接触し、互いに関係を築き、最後は埋もれてしまった歴史の真実を知り、「選択」を行う。……といった物語。

「始まりの剣・フォルトナ」「始まりの獣たち」そして「新たな世界を生み出そうと暗躍するもの達」がこの物語における三本柱で、全ての物語の選択を担うのが冒険者たち」です。

こんなバックボーンがありつつ、さまざまな小さなお話を連続して流し、大きなCPの物語に纏めようとしたのがこのキャンペーンでした。

 ■キャンペーン構成のおはなし。

今回のシナリオは全部で37話ありますが、実は大きく3つのパートに分かれています。

・序幕~第十三幕、冒険者たちが出会い、絆を深める「邂逅編」

・第十四幕~第二十八幕、PC達の過去を深堀り、シナリオと絡めていく「回想編」

・第二十九幕~終幕、すべての事実が明らかになり、終わりへと進む「終局編」

以上大きな3パートに分かれていて、そのパートの中も、さらに細かなチャプターのように区切って作っていました。あとはチャプターとチャプター、パートとパートの間には、息抜き的なセッションを挟み、それぞれの話をクールダウンさせるように作っています。長いからね、息抜きはとても大切なのです(私が)

 ■【邂逅編】序幕~第十三幕、その中身は?

 このパートでは大きく「PC達冒険者の出会いとパーティーの結成」「カスロット砂漠を舞台に、PC達の絆を深める冒険パート」の二つをメインに進めています。そして、それらと同時に今後の展開に必要な伏線や、このキャンペーン全体の物語に必要な要素をちりばめていきました。

◆序幕~第三幕「PC達冒険者の出会いとパーティー結成!」

序幕~第三幕までは、特にPC同士の出会いと彼らの深堀をメインにシナリオを進めています。序幕では、まさにジュリア、ブレイザ、めい、エアルの冒険者たちが邂逅し、冒険者への道を歩み始めるきっかけを描いています。また、今後のシナリオにもかかわってくる重要なNPCのギルドマスター「ガルフ・ローラン」や、彼の娘である「ウルル・ローラン」といったNPCが初登場しています。

第一幕、第二幕ではさらに彼らのつながりを深めるため、依頼を受けてもらい、小さな冒険をしてもらっています。第一幕では野営パートを設け、PC同士の交流を深めることを目的に。第二幕では、第一幕で見えてきたPC達の弱みや、過去のトラウマなどを突き刺し、それぞれの闇を確認しました。それぞれの弱点がPL目線だけでも明確に見えていた方が、より親密度が上がるかと思っていたのですが、想像以上に刺し過ぎた部分もありましたね。ははは。

そして、第三幕(前編・後編)では序幕より登場し続けているギルドマスター「ガルフ・ローラン」と「ウルル・ローラン」の過去と現在の話を展開しています。ここでは、このCPの黒幕にして、今後彼らに深く関わってくる人物───「顔のない男、レムナント」────が初めて登場し、ウルルの叔母にあたるマリル・クローバー」という女性も登場しています。このパートでは、PC達のもつ信念や矜持と言った、根幹にかかわる部分に対してどういうリアクションを行うのかを確認しつつ、CPにおいて重要な伏線をいくつか配置していたりしました。
また、シナリオ展開もNPCをメインに据えつつ、そのNPCの選択をPC達の影響によって変化させる形で展開しています。これは、現時点ではPC間同士の連携や、互いの主義主張をGMが把握しきれていなかったのと、CPが始まったばかりであり、PLの中でPCのイメージを固めさせる期間が必要と判断したからです。序盤からかなり重い展開をぶつけ続けたので、それらを咀嚼してPCに反映させる時間を、このシナリオを通して渡すつもりでした。

……もっとも、今回のPLに関しては、そのような配慮はいらなかったかもしれません。それぞれに素晴らしい行動と選択を行い、見事に最良の結末へとたどり着いたのですから。ただ、この出来事を気に、彼らは冒険者としての第一歩を踏み出し、のちに偉大なる英雄として記憶される冒険者パーティー「夜明けの理想郷」として歩み始めたのでした。

第四幕「湯煙もくもく大合戦!」という、のちに悲劇として記憶される息抜きセッションを経て、第五幕よりカスロット砂漠を舞台にした、前半戦の大きな山場、カスロット砂漠横断編が開始されます。

◆第五幕~第十三幕「カスロット砂漠を舞台にした冒険パート!」

カスロット砂漠横断編は、ハ―ヴェス王国とラージャハ帝国、そしてキングスレイ鉄鋼共和国を結ぶ大陸鉄道の上に突如として発生した巨大な奈落の魔域を攻略する物語です。このお話に焦点を当て、実に9セッション8シナリオをかけてゆっくりと進めていきました。このパートはCP全編を通じても、一番冒険要素が強くでていたパートだったかと思います。

このパートでは、カスロット砂漠の北部に出現した巨大な奈落の魔域を攻略するため、ハ―ヴェス王国、ラージャハ帝国、そしてキングスレイ鉄鋼共和国、それぞれの国から代表として腕利きの冒険者を選出・派遣し、協力してこの魔域の破壊を行っていきます。「奈落の矢【アビス・アロー】作戦」と名付けられたこの作戦に、国を代表する冒険者一行として、PC達冒険者が選ばれるという導入。そしてカスロット砂漠の北部に行く道中で、PC達は黒髪の青年、「カルラ」と出会うのです。

このカルラくん、実はガルーダのウィークリングなのですが、人族にも蛮族にも居場所がなかった彼は、完全な人族か蛮族のどちらかになることを夢見て各地を放浪していました。そんなある日、前述の「顔のない男」がカルラに蛮族になれる方法を教え、それを達成するためにカスロット砂漠の北部に発生した奈落の魔域を目指しています。

冒険者たちとカルラの軌跡は奇妙複雑に絡み合い、旅先で幾度となく接触し、互いに理解を深めていきます。そして、カスロット砂漠の奥地、大渓谷の最果てで、冒険者たちはカルラの真の姿を目撃します。カルラがガルーダのウィークリングであること、これまでに幾度となく人族に迫害され、蛮族からも追い出されてきたこと、そして冒険者たちを憎んでいること……
それでもPC達冒険者たちは、彼を迫害することもなく、そのままの彼を受け入れて共に歩み続けます。そんなPC達の在り方に、カルラ自身も少しずつ考え方が変わってくのでした。

カスロット砂漠を縦断しようと思った冒険者たちでしたが、運悪く巨大な砂嵐に見舞われており、北部への直通ルートではたどり着けないことが判明。致し方なく大渓谷を通って西側へ退避、マカジャハット王国を経由し、目的地である作戦発動の拠点、ラージャハ帝国へ向かうのでしたが……大渓谷の主ロックに襲われ、冒険者もカルラも大地の底へと堕ちていきます。その先には、大精霊たちが作り上げた地の果ての妖精郷があり、冒険者たちはそこへ流れつきます。ここは割と息抜き回でしたね!妖精の自分勝手な感じをうまく妖精郷に落とし込めたと思います。

その後は一致団結し、ロックの追撃を振り切りながら大渓谷を脱出。冒険者たちとカルラは芸術と美の街、マカジャハット王国へとたどり着きます。そして、ここでもまた新たな問題に巻き込まれていくのです。

マカジャハット王国は、カスロット砂漠周辺で頻発する蛮族の襲撃に対抗するべく、国軍を動かして防衛にあたっていたのですが、その蛮族に加担したとしてダークドワーフにして一流の刀匠、「グラム」という老人を捕縛し、処刑しようとしていました。冒険者たちは、グラムの孫「エクス」とマカジャハットの街で出会い、グラムを助けてほしいとお願いされます。冒険者たちはグラムを救い出すべく動くのですが、その姿を見ていたカルラもまた、彼らなら信じることができると、想いは変わっていきました。

グラムの奪還とマカジャハット王国軍との戦闘、そして砂上船での脱出から大渓谷からはるばる追いかけてきたロックとの最終決戦……と、この辺りはイベント盛りだくさんで物語もガンガン動いていく感じを意識しています。CPとしては序盤ですが、ここのイベントでPC達の蛮族/人でも蛮族でもない者への、スタンスや考え方GMとしては確認していました。また、序盤はガンガン動かした方がPC達の中も深まりやすいですしね!

激動のカスロット砂漠~大渓谷~妖精郷~マカジャハット王国~ロック最終決戦と話は流れ、目的地であったラージャハ帝国にたどり着いた冒険者たち。ラージャハ帝国には、ハ―ヴェス以外からも冒険者がすでに到着しており、ラージャハ王国からは“アビスルーラー”と呼ばれる、魔域専門の冒険者チームが。キングスレイ鉄鋼共和国からは、“スチールスチーム”という、サンビアードトレイン社お抱えの冒険者兼魔導技師のチームが派遣されています。また、ハ―ヴェス王国からはPC冒険者たち以外に、王国貴族お抱えの私兵集団「黄金林檎」というパーティーが参加していました。彼らも共に奈落の魔域に突入し、冒険者たちとともに魔域の破壊を目的としています。シナリオとしての役割は、魔域内のギミック発動用や、PC冒険者との対比を描くため、うごかしやすい駒を用意しておきたかった、という理由があります。また、同格冒険者を出しておけば、後々援軍や成長の対比を描くにも困らないなぁという魂胆もあったりしました。

国家元首のお偉いさんや、各パーティー同士の交流がすみ、いよいよ“アビスアロー作戦”が発動します。奈落の魔域周辺には多数の魔神や蛮族などが展開しているため、飲み込まれてしまった魔導列車の路線を活用し、魔導列車にのって魔域へと突入するという、ダイナミックエントリーで魔域へ突撃!

魔域内部は極めて広大な空間が広がり、あたり一面はどこまでも続く荒れ地と、はるか先まで続いた魔導列車のレール。そして、レールの先にそびえたつ、巨大なねじれた塔と、現実離れした空間がどこまでも続いています。冒険者たちの乗っていた魔導列車も、本来の姿から形を変え、気が付けば冒険者たちはボックス席に座っています。PC達は用心深く魔導列車内を探索すると、どうやらこの列車はねじれた塔に向かっているようで、列車の中にはその塔へと向かう、”半端ものの蛮族”たちであふれていたのでした。剣を失ったドレイク、人と生きることを選んだラミアや、ウィークリングたち……様々な半端ものたちが、一様に塔を目指す理由を聞けば「その塔にたどり着けば、完全な人になることができる」と口をそろえて言うのです。ここにいる彼らもまた、カルラと同じく完全な人や、蛮族に憧れ、「顔のない男」に集められたもの達だったのです。 

 冒険者たちは列車内をさらに探索し、この列車の運行を任されているという「リルル」というライカンスロープと遭遇。リルルは冒険者たちを排除しようと襲い掛かりますが返り討ちに。この時までこのキャラクター、単なるシナリオボスとして用意していただけで続投させる気はなかったのですが、ジュリアの発言やエアルの行動によってまさかのネームドNPC化。「クエスト」の呪文で、「人のよき友として生きる」ことをリルルは約束し、エアルもそれにこたえるため、自身にクエストをかえる……このCPを通じて、初めてGMの想定外のキャラクターが生まれた瞬間でした。

こういううれしい誤算というか、予想の斜め上を行くところがCPをやっていてとても面白い所だと個人的には思います。しかもこのリルルですが、最終的には物語的に結構重要な役割を担ったり、最後まで冒険者たちと一緒に戦ったりすることになったり……GMもPLもこの時はそんなことを知らないのですが、事実というのは面白い方向へと転がっていくもののようです。

リルルの助成を得た冒険者たちは、ねじれた塔へと到着しその内部へと潜入していきます。内部には、他者の身体と身体を交換する魔法の設備があり、どうやらこれで半端ものの蛮族たちの願いをかなえていたようです。……そして、当然ながら器となる人間たちも多く捕まっていました。その多くは身寄りのない子どもや攫われてきた人々のようですが、冒険者たちは上階へと進むにあたって、結果的に多くの人々を救出することとなります。そして、この塔の最上階にはこの魔域の元凶にして、半端ものの蛮族たちを呼び集めた張本人である「顔のない男・レムナント」冒険者たちを待ち構えていました。

レムナントは、冒険者たちを前に嬉々としてこの騒動を引き起こした真の目的を語ります。それは「人も、蛮族も、魔神もない。新たな種族による、新たな世界の創造」
この魔域に創られた塔も、その大いなる目的のファーストステップだと語り、そして冒険者たちに新たなる世界の担い手にならないかと甘い言葉をささやきます。しかしこれは、既存の種族すべてを融合し、新たな種族へ作り替えるという『現存世界の滅亡』を意味しています。同時に、新しい世界の新種族は、ただただ幸せな夢に浸り続け、自身の望んだ夢を見続ける終末世界への変貌を意味していました。

当然ながらPC達はこれを拒否し、担い手となることを拒みます。レムナントはこれを残念がりつつ、今度はカルラに「完全な蛮族へとなる手段がある」といい、完全なガルーダの身体……実はこの身体、カルラの母の身体をベースに構築したものなのですが……を示し、我々と共に来ないかと誘います。しかし、カルラもまた、これまでの冒険の中で、“今のままの自分”を認めてくれたPC達と出会ったことで、それを拒絶します。

……これ全然関係ない話なんだけど、今書いてて気が付いた。これ、カルラ君男の子なんだけど、母ベースのガルーダの身体に入ったらTS獣人化するってこと?マジ???

……完全に拒絶されたレムナントは非常に残念がりながらも、今後の障害となりうるPC達やカルラを排除するため、自ら魔域を崩壊させ、かつ入れ物として用意したガルーダの素体に、あろうことかカルラの母と同じ意識を宿らせ、冒険者を襲わせます。ここの戦闘は、【邂逅編】きっての大勝負、シナリオ的にもデータ的にもかなりきつめの敵を出していたりします。また、フェローとしてカルラとリルルも参戦。死闘の末に冒険者は勝利する……のですが、ここで一つ大きな問題と、「選択」を与えていきました。

崩壊する奈落の魔域。彼らが昇った塔の頂上もまた、崩壊に巻き込まれそのほとんどが崩れ落ちていく。外へ脱出できる外部への亀裂は開いていいるが、それは空高く、すでに崩れ始め、その高さを失いつつある塔の頂上からは届かない。

だが、一つだけ方法が残されている。倒されたガルーダの身体と、その体に移るための転移装置。カルラがガルーダの身体へ移り、冒険者たちを天高くにできた亀裂まで運べば、冒険者たちは外部へ脱出できる。しかし同時に、カルラは今の身体を失い、また戦いで酷く損傷したガルーダの身体への転移は、自殺行為に等しい。たとえ転移が成功し、冒険者たちを送り届けることができたとしても、カルラの身体は耐えきれない……

つまるところ、PC冒険者たちに「生き残るためにカルラを犠牲にする」「カルラと共に奈落の最果てに堕ちるか」の2択を突きつけていきます。幸いにも(?)このPTにはソーサラーやライダーがおらず、自力で空を飛ぶ手段はありません。まぁないことを確認したうえでこの方法を取ったのですが。……何はともあれ、冒険者がこの2者択一を選ばざるを得ない状況を無理やり創り出しています。よいGMの皆は真似しちゃだめだゾ。

このCP始まって以来の、PC主導の大きな選択肢。相手は人族ではありません。しかし、敵対する蛮族でもありません。生き残るために、仲間を、友を犠牲にできるか?  君たちは「カルラ」という存在を許容し、そしてともに死ぬことができるのか? と、結構な質問を投げつけています。滅茶苦茶ですねこのGM

PC達も、これには反応が割れました。必ず生きて帰ると、強い意思を主張したジュリア、対象的にかなり悩んだめいやエアル。そしてそれを見るブレイザ。そして、最終的に彼らは「カルラと共に奈落の底へ堕ちる」道を選びます。ジュリアは最後まで生き残る手段を実行しようとしましたが、ブレイザがそれを妨害し、めいは「一緒に命かけへん?」と覚悟を決めて、勇気を振り絞って笑顔でそう語り掛け、エアルはその気持ちを受け取り……そして、カルラは最後まで、そして生まれて初めてできた友と一緒に、奈落の底へと堕ちていきます。

ここはね、本当に各PCの持ち味が出されたいいシーンだったなと思います。それぞれの想い、願い、痛み、恐怖……あらゆる感情と感覚が溢れて、それが凝縮された瞬間。崩壊する奈落の魔域の闇に堕ちながら、彼らはそれぞれの思いを叫びながら……

実際問題、ここで冒険者を全滅させてしまうとCP完(死)となるため、どちらを選択しても死ぬことはありません。これは選択肢を出した時点で言っていたりします。ただし、カルラと共に奈落の底に堕ちた場合、強烈なペナルティが発生することも示唆しています。奈落の底に堕ちながら、その途中で様々な”誰かの記憶”を垣間見る冒険者たち。そのほとんどは魔動機文明時代のようで、街が大破局によって焼かれていく様や、何かの実験のような景色を見せられ、同時に人々の痛みや、恐怖、苦痛が伝播し冒険者たちを苦しめます。冒険者たちが気が付けば、もともと乗ってきていた魔導列車の地面に横たわっているのですが、ここで、そのペナルティの正体が明らかになります。

エアルは立ち上がろうとすれば、足が。ジュリア、めい、ブレイザは片腕の感覚がありません。奈落の魔域のペナルティ、それは「四肢の感覚の欠損(呪い:永続)」であり、データ的には足は移動力半減に加え、足を使うすべての行為判定にペナルティ修正。腕は2Hの武器・アイテムの装備不可に加え、腕を使うすべての行為判定にペナルティ修正と、かなりどぎつい呪いでした。もちろん、実際に腕や足が消し飛んだわけではありません。

そしてもちろん、呪いを受けたのはPC達だけではありません。彼らが救おうとした仲間、友であるカルラ、そしてリルルも呪いを受けてしまいます。
リルルが受けた呪いは「失明(呪い:永続)」。突如として彼女は光を奪われ、音だけの暗闇に閉じ込められます。そしてカルラは……「記憶喪失(呪い:永続)」、あらゆるエピソード記憶を失い、戦闘特技なども一切使用不能となるというもの。これには冒険者たちも(とくにめいちゃんとエアルくんが)かなり沈痛な面持ちに。命の次に大切なものを奪い取る。呪いというものは効果的に使いませんとね……

もちろん、こんな状況ではテンション的にもCP的にも困ります。困るなら出すなよという気もしますが、この呪いを解呪するため、ギルドマスター・ガルフの知り合いである高名な神官の元へと旅立ち、療養する第十三幕を設けています。思いっきりGMの趣味というか、息抜き回でしたけどね!

 

こうしてみると、カスロット砂漠横断編~アビスアロー作戦はかなりボリューミーかつ、PC達を揺さぶるイベントを多く置いていますね。ここでは前半は冒険味をメインに、後半はダンジョン踏破とPC達とNPCの関係性をメインに据えてシナリオを作っているのが分かります。CP全体通して「冒険」というソードワールドにおいて重要な要素が少ないCPとなることはある程度分かっていたので、CP前半のここだけでも「冒険」を楽しんでほしい、というGMの悲痛な叫びが凝縮されていますね。また、CP序盤ということもあり、序幕~第三幕まではNPCメインにだったのが、第四幕~第十三幕からPCメインに徐々にシフトしていっています。どうしてそんな段階を踏んで、PCの行動範囲を広げていったのかというと、第十三幕の療養編(息抜き回)の後からは、各PCにスポットを当てた【回想編】が始まるからです。

■【回想編】第十四幕~第二十八幕、どんなお話だったの?

このパートからは、【邂逅編】とは変わり1PCずつにスポット当て、一人あたり3シナリオ分の時間をかけて、じっくりPCの過去や設定を深堀していく「個別シナリオ」パートとなっています。

このCPは先にも述べたように、大きな三本柱によって構成されています。

世界を産み落とし、ありとあらゆるものを作った始まりの剣。そのうち、歴史から消え去った「運命を司る剣・フォルトナ」
始まりの剣たちから産み落とされた、原初にして究極の生命体「始まりの獣たち」
新たなる世界の創造を目論み、世界の裏側で暗躍するもの……「顔のない男、レムナント」とその一味。

実のところ、3要素と言いつつCPをやり始めた序盤は「始まりの剣」の構想と「レムナントたち」の構想の2つしか存在していませんでした。しかし、それだけではPC達の設定と、このCPで行うシナリオとに溝を残したまま進めることになりかねません。で、あるならばこの2要素とPC達の設定をくっつけるための要素を用意しよう! ということで生まれたのが「始まりの獣」という要素でした。

「顔のない男、レムナント」とその一味は、新たな世界を創り出すために様々な種族や力を取り込みながら、その陰謀と勢力を拡大していきます。当然ながら、「始まりの剣」より産み落とされた「始まりの獣たち」も例外ではありません。彼らの力を奪い取る、もしくはつながりを持つことによって、新世界創造における重要な基礎へと作り替えようと暗躍します。そこに「始まりの獣」とのつながりを持ったPC冒険者たちとの衝突や接触が巻き起こり、物語はさらに大きなものへと進んでいきます。

つまり、この「個別パート」ではPC達の過去設定を深掘りしつつ、「始まりの獣たち」と設定をリンクさせることで、PC達の設定をCP側の設定に組み込んでいく工程でもありました。

実際のCPでは
・「エアル編」(第十四幕~第十六幕)
・「めい編」(第十八幕~第二十幕)
・「ジュリア編」(第二十二幕~第二十四幕)
・「ブレイザ編」(第二十六幕~第二十八幕)
と、全12シナリオ4パート+間の息抜き回に分割されています。ここだけでもかなり長大ですね。これらの各パートで、それぞれのPCの過去設定やシナリオ側で用意した追加の設定、そして関連するイベントなどを起こしながらじっくりと進めていくスタイルでした。

このパートをやるにあたって、実施前にかなり綿密に各PLさんと綿密に設定をすり合わせています。こちらから開示する情報や設定などを確認しながらGMとPL」でシナリオを作っていく、今までにあまりトライしたことのないやり方だったのでとても新鮮でした! 実際に卓中に、お互いのRPや動きでシナリオを作り上げていくのとはまた異り、PLとしてほしい部分、GMとしてほしい部分を互いに提示・確認できるので、より没入感とすれ違いのないシナリオが作れたんじゃないでしょうか?(多分) とても面白い経験でした!

それぞれの個別パートの概要(?)は下記に連なって記載しています。正直語り足りません。シナリオの詳細やNPC達、裏で作っていた設定は山ほどありますが、ここではその中でも特に重要なものや、印象に残ったものをピックアップして掲載しています。

◆第十四幕~第十六幕【エアル編】

 個別パート第一弾は男一点エアル君から。彼のパートでは、エアル君の故郷を舞台に、エアルが生まれる前の両親の話と、エアル君の先祖と「始まりの獣」とのつながりの話を展開しました。

本CPでは、PCそれぞれにシナリオ側との接点を設けるため、こちら側から追加で設定を追加しています。エアル君の場合は、彼の先祖が「始まりの獣」の1柱である「セレノス」と呼ばれる巨大な地竜の力の一端を継承している。という設定を追加させていただいています。そして、エアル君の先祖がなくなった後も、ひそかに人と「始まりの獣」とのつながりは、薄まりながらも繋がっている……といったものです。

シナリオ的には、奈落の魔域に飲み込まれたエアル君の故郷へと足を踏み入れれば、エアルの知らない過去の村へと変貌しており、CP開始当時、すでに死去していたエアルの母と出会うところから物語は始まります。
エアルの母と父、そして父と母の親友でもあった「サラ」という女性を交えた悲哀もののストーリー(悲哀というのだろうか? 適正な言葉が見つからなかった)そして、エアルの出生に関するエピソードを個別シナリオで語っています。人間の母とエルフの父、その間に生まれるエアルは、本来人間かエルフとなるはずでした。しかし、母のお腹の中にいる際にセレノスと接触母がその身に穢れを受けたことで、胎児であったエアルも影響をうけナイトメア化。その後母は死に、ナイトメアの子とエルフの父のみが残った……とだいぶ端折って書いたな。ここらへん、細かくまとめて個別記事で書きたいですね。

また、敵役として「顔のない男、レムナント」側のキャラクターとして「ユエル」というナイトメアが登場。始まりの獣「セレノス」の力を巡り、そしてお互いの「ナイトメア」に対する価値観で対立させるようなキャラクターとなっています。このユエル君はかなりエアル君に似せて作成しており、エアルと対照的に見えるものの、抱えているものは根源的に近くなるような動きをさせていました。

・始まりの獣、大地を統べる者、地竜「セレノス」

トップバッターで現れた「始まりの獣」の内が一柱、セレノスです。巨大な翼を持たない竜であり、その力は全盛期であれば古代神たちを凌駕する力だったとされています。もともと「始まりの獣」たちには名前はありませんが、「セレノス」に関しては、かつて魔動機文明時代に出会った、エアルのご先祖様「エア」という人物につけてもらった名前になっています。実はこの名前、エアル君の村の名前からとっています。CP内の裏設定では、エアが始まりの獣に「セレノス」(始まりの友)という名前を授け、そこから派生して「セレノシル」という村の名前になっていったと、設定とは逆の順番で伝わっていったものとなっています。

始まりの獣は、本CPでは四柱現れており、西を守護する「蒼竜」北を守護する「銀狼」東を守護する「紅鳳」南を守護する「白鯨」と設定しています。それぞれ4つの方角に獣を設定したのは、四聖獣っぽくて覚えやすいかな~と思ったのと、「始まりの剣」がこの物語では4本存在するためです。「始まりの獣」はそれぞれ「始まりの剣」にも呼応しており、1の剣ルミエルは「蒼竜(調和)」を、2の剣イグニスは「紅鳳(破壊)」を、3の件カルディアは「白鯨(叡智)」を、そして4つ目の剣フォルトナは「銀狼(運命)」をそれぞれ象徴し、関連付けています。

・かなり混乱した『個別パート』

正直、個別パートのシナリオはかなり作成に苦戦しています。PCの設定をシナリオに盛り込むのって難しい……そして、そのトップバッターであったエアル編のシナリオは、私がかなり迷って描いていたのもあって、全体的に不明瞭な部分がかなり目立っていたのかな?と思っています。ごめんねエアル君!!!!
個別パート全編通して、とりあえず伏線的なものを仕込んでおいて結局拾わなかった(というか拾えなかった)ものや、設定として作ったけど全然使わなかった(というか使う暇がなかった)というものも、実は結構あったりしたのです……

◆第十四幕~第十六幕【めい編】

 個別パート第二段はエアル君とペアでもあるめいちゃん。めいのパートでは、彼女が記憶を失ってしまった経緯と、彼女の住んでいた街に何が起こったのか、そして彼女は一体何者なのか、というところを重点的に描いています。

本CPでの接点として、めいちゃんには「始まりの獣たちと人との関り」を象徴するものとして、人と獣たちを繋ぐ「巫女」という設定を追加していました。ただ、後から振り返るとこの設定全然生かせてないですね…ごめんなさい。この設定は、エアル君の「始まりの獣の力を継承した者」と対になるような設定で、「その力を制御し、人ととのつながりを作る者」としてデザインしていました。生かせなかったけどね!
折角のペアOPだったので、設定もペアにしようという試みだったのです……

個別パートのシナリオ的には、本当の自分「リリアーヌ・シーング」であった時の記憶の回収と、生まれ故郷である「カイナシティ」に起きた悲劇、そして「めい」になった経緯についてをメインに描いています。6年前、カイナシティの近隣にあるメイトルパの森にすむ幻獣たちが、突如として正気を失い暴走。また、その暴走に乗じ魔神も襲来し、カイナシティは甚大な被害を受けます。カイナシティの領主であったリリアーヌ(めい)の一族も果敢に戦いますが敗北。幼いリリアーヌを残し命を落とします。絶望に暮れたリリアーヌは、再び家族に会いたいが一身で飛び降り自殺を決行してしまいます。しかし、リリアーヌは死ねずに、ちょうど通りかかった幻獣・ユニコーンのゼウスに保護され、その後は「メイトルパのめい」として生きていくことに……この事実を徐々に知っていくのがシナリオの本筋でした。

また、エアル君のときと同じように敵役に「リリアーヌ」という名前の、めいと瓜二つのレプラカーンが登場。このキャラクター、実はカイナシティを襲った魔神であり、めいの“半身”を引き継いでいる設定です。自ら命を断とうとしためいを見つけた魔神は、その体を奪い取ろうとするものの、全ては奪えず一部分だけ奪取。その結果、めいは本来の「リリアーヌ」としての記憶を奪われ、魔神は「リリアーヌ」の記憶と体を奪い取り、リリアーヌとして行動するようになりました。

後に「リリー」として名乗り行動する魔神でありますが、このキャラクターはユエルと行動を共にしており、PCサイドのエアルめいに対して、エネミーサイドのユエルリリーと、対立構造になるようなキャラクター構成にしています。PCだけが団結し戦うのではなく、敵もまた己の矜持と理想の実現のために剣を手に取り、団結して戦うのです。そして、PC達の目の前に立ちふさがり、私たちが正しいのか、貴方たちが正しいのかと問いかける役割も担っています。

・ユエルとリリーの関係

上でも書いていますが、この二人の関係はエアルとめいの関係を強く意識しています。ジュリア・ブレイザの二人と比べて、男女というのもありますが、いろんな意味でより親密な間柄の二人。特にエアル君はナイトメアという性質を持っているがために、通常の人とは異なる人生を歩んでおり、めいちゃんもまた、過去の記憶がないという強い設定を持っていました。エアル君については、仲間と共に冒険を繰り返すことで、様々な人々や世界を見聞きし、”自らを受け入れてくれる世界”を次第に自分の周りに形成していくことに成功しています。めいちゃんは過去の記憶はありませんが、本来の記憶と人格がないからこそ、自由気ままに、そして非常に情熱的に行動することができるキャラクターです。

対してユエルはというと、自身がナイトメアであることに強い拒絶感や絶望感を抱いて育っています。また自分自身がエアルのように”自らを受け入れてくれる世界”を構築できず、誰からも認識されず、そして誰からも迫害される環境しか彼は手に入れることができませんでした。そのため、エアルに対しては強い敵対意識(嫉妬や苛立ち)を持って立ちふさがります。リリーはといえば、本来は中身は空っぽの魔神であり、虚ろなその存在は、そのままでは消えてしまうほどに虚弱で脆弱な存在でした。そんな折、中身をたくさん持った“少女リリアーヌ”が、自身の手でそれを放棄し、手放したことに強い憤りを感じています。体と記憶を奪い取った後も、その感情は消えることなく”オリジナル”であるめいを殺す、というよりかは、”リリアーヌとしての私を棄てた”めいを殺す。という感情で動いています。

このユエルとリリーの根底にあるのは、”誰からも認められない、私は不要な存在”というものであり、簡単にいえば「寂しかった」という言葉が一番適切なものでした。ですが、ユエルはエアルと相対し、互いに感情を知り、認め合うことで。めいはかつての自分と相対し、自分自身を認め、「リリアーヌ」としての「リリー」を認めることで、ユエルとリリーは、生まれて初めて”誰かに認めてもらう”ことに成功するのです。

そしてこの成功は、GMの想定外でもありました。正直、この二人ともキャンペーンから退場させる予定で動かしており、めい編の一番最後のシーンで両方とも死ぬ予定でしたが、PC達が早々に彼らを認める「選択」を取り、受け入れてしまったためにシナリオを一部変更し、和解するルートを急速生成したりしていました。本当にこのキャンペーンはこんな変更が頻発するので、作っていて予想がつかずとても楽しかったです!

◆第十八幕~第二十幕【ジュリア編】

第三弾の個別パートではジュリア編に突入! このパートでは「始まりの獣」が一体何なのか、そして「巫女」と呼ばれる存在とそれらを守る「護り手」の関係に関して触れていきます。このCPの3本柱である「始まりの獣」の要素に直接的に接触していくパートとも言えますね。

3本柱の一つである「始まりの獣」と巫女や護り手たちがどのような存在なのか? この設定に関しては、PC達の設定と深く関係させる予定であり、非常に重要な要素となります。そのため、本来公式にて設定されているこの世界の神話体系に、あらたに「始まりの獣たち」の神話を創造し、このキャンペーンの追加設定として物語の根幹に横たえています。その創造した神話は、次のような物語でした。

・始まりの獣の神話

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本CPの要素として「始まりの獣」と呼ばれる存在がいますが、これらは「始まりの剣より世界に産み落とされた、原初の生物」と定義しています。つまるところ、全ての生物はその系譜をたどればこれら「始まりの獣たち」へとつながっており、「始まりの獣たち」からしてみれば、この世すべての生物は、例外なく愛しき我が子であると認識しています。そんな子どもたちも、遥か古の時代には母たる獣たちを崇め、奉り、「始まりの獣たち」もまた、我が子のためにその権能を使い、子どもらが住みやすい世界を創り、知恵を与え、戦う術を教え、魔力の存在を広めていきました。こうして、「始まりの獣」たちは原初の母であると同時に、原初の神々となり、多くの動物や幻獣、そして小さき人々から信仰されます。しかしながら、蜜月の日々は長くは続きません。

小さき人々の中から、「始まりの剣」に触れ、神格を得たものが現れたのです。そう「始祖神ライフォス」とそれに連なる多くの古代神たちです。人の中から神が生まれ、世界は再び変わっていきます。より人のため、より住みやすい世界へと。この流れは多くの人々を経由し、世界へと広まり、原初の神々への信仰は、次第に人から生まれた古代神たちへと移り変わっていきます。それでも「始まりの獣たち」は気にしませんでした。愛しき我が子たちが何をしようとも、彼らを信じていたからこそ……

そうして長い年月が流れ、人々は旧き原初の神々のことを忘れ、古代神たちを信仰し始めるようになりました。それは同時に、旧き神々の排斥へと変わっていったのです。その流れは次第に大きなものとなり、最後には異教徒、邪教とまで言われ、原初の神々────「始まりの獣」たちは急速にその求心力を失っていきます。古代神たちと違うのは、彼らが人々の信仰心を糧に力とするのとは異なり、「始まりの獣たち」はそれそのものが強大な力の塊であり、外部からの信仰を必要とはしていなかった点でしょう。しかし、それすらも多くの人々には不気味に思え、恐怖と畏怖の対象として映ったのです。ただ、多くの人々が離れていった後にも、「始まりの獣たち」と共に残った者たちも僅かばかり存在しました。

残った者たちは「始まりの獣」を守るものとして、また、意志を持つ「始まりの獣」から世界を守るものとして、敵意ある外の人々と戦いました。残った彼らは「始まりの獣」たちのことを信仰し、愛していました。「始まりの獣」たちもまた、彼らのことを愛していましたが、同時に敵意ある外の人々のことも、我が子であるがゆえに愛していたのです。我が子たちの争いは日に日に増え、その度に小さな悲しみが「始まりの獣」たちに降り積もっていきます。

そして、その日が来てしまいました。「始祖神ライフォス」と「戦神ダルクレム」の引き起こした「始まりの剣」を巡った神々の戦い────神紀文明時代に巻き起こった巨大な争いは、多くの子どもたちを巻き込み、大量の死を振りまき「始まりの獣」たちに深い悲しみと、もはや止められぬ怒りの炎を巻き起こします。

我が子を殺す戦いを引き起こした神々に、「始まりの獣」たちはとうとうその牙を剥きます。大地を引き裂き、山を穿ち、巨大な津波とすべてを焼き尽す噴火を引き起こしながら。獣たちの怒りは多くの神々を殺し、また、獣たち自身も戦いによってその数を減らしていきます。そうして、神々の戦いは佳境を迎えるのでした。

始祖神ライフォスを始めとした神々は戦場を駆け巡り、それらの戦いを止めるため奔走します。ですが、一度激怒した獣たちを宥める事叶わず、戦いは膠着状態へと陥ってしまします。そんな中、傷ついた獣たちの眷属を、敵対する人族の子が助けるという出来事が起こります。それは、獣の耳をもつ小さな子どものような種族で、彼らは戦いの中で、敵味方関係なく傷を癒し、次第に絆を結んでいきます。

この出来事に目を付けた「始祖神ライフォス」は、「始まりの獣」たちに和平と融和を求め、また「始まりの獣」たちも我が子らの絆に免じ、その怒りの牙をひとたびしまうこととしました。後に、この獣耳の子は「始まりの獣」と「人」を繋ぐものとして「巫女」と呼ばれ、始まりの獣の元で戦い、守り抜いた者たちを「護り手」と呼ぶようになりました。新しき神々と、古き神々は約定を結び、新しき神々はこの悲惨な歴史と争いなき世界を、「旧き盟約」として後世に残していくことを誓います。代わりに、始まりの獣たちは神々の戦いの火種でもあった「始まりの剣」の内一振りである「フォルトナ」を破壊し、二度とこのような惨事が起らぬよう、恒久の平和を願ったのでした。

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……と、こんな設定がバックボーンに据えられており、本CPとジュリアの接点はこの神話にもある「護り手」の立ち位置です。「巫女」と「護り手」の設定はもともとジュリアのPC設定に存在していたもので、それを「始まりの獣たち」の神話に組み込んだものとなります。

個別パートのシナリオでは、ハ―ヴェスの北部、ジュリアの故郷である「アンダルシア」の森にて異常気象が発生。それに伴ってハ―ヴェスの主要な水源地である水源が凍り付き、ハ―ヴェス王国へと流れ込む川の取水量が激減してしまう事態に。その原因を解決するために冒険者たちはアンダルシアの里へと向かいます。里へたどり着けば、ジュリアの幼馴染でありこの里の長も務める「巫女」の「セレーネ」が現れ、冒険者たちを歓迎してくれます。そしてまた、この森に起きている異変について、セレーネは教えてくれるのでした。森の最奥、禁足の地にいる封じられた「始まりの獣」の一柱である天狼「アトランティカが目覚め、取水源である湖を凍らせたのだと。

冒険者たちは森へと入り、アトランティカと出会おうとしますが、それを阻むように現れたのが弓の名手にしてジュリアの実の姉であるラヴィニアでした。彼女もまた、異変に気が付き、「護り手」が長らく不在だった里の為、何よりもジュリアのために武器を手に取り、冒険者たちの征く手を遮ります。

それ以外にも、「始まりの獣」を狙って現れた「黄金林檎」フレイヤや、「始まりの獣」であるアトランティカを守り続けた「巫女」と「護り手」の本当の役割など、かなり多くの情報が展開され、物語も大きく動いていくことになりました。

尺の都合で、ラヴィニアが何故冒険者たちの征く手を堅固に阻んだのか?「黄金林檎」のフレイヤが「始まりの獣」を狙った真の目的とは?といった部分がほとんど語られずに終わってしまったのは痛恨のミスでした……

・ラヴィニアは何故行く手を阻んだのか?

ジュリアの姉であるラヴィニアですが、ジュリア側の設定で兄や姉が居り、ジュリアはその兄弟の末っ子であるという設定を一部回収したものになります。末っ子でありながら、最も高い技量を誇ったジュリアは里を代表する「巫女」の「護り手」として、代々祖先より伝えられる「誓約の武器」というものを引き継いでいるのですが、姉ラヴィニアはこの出来事を当初は自分のことのように喜ばしく、また誇らしく思っていました。
しかし、この里における「巫女」と「護り手」というものは、象徴であると同時に、隠された一つの真実が存在していました。それは、森の奥地で封印され続けている「始まりの獣」の封印用の神器────つまるところ“生贄用の素材”である、ということです。

彼らアンダルシアは、神話に語られる「護り手」の一族であり、神である「始まりの獣」を守り、また人々を守るために、「始まりの獣」自身を封印するという手段を取りました。きっと、これもまた苦肉の策だったのでしょう。しかしながら、強大な力の塊である「始まりの獣」を完全に封印し続けることはできず、そのため、定期的にその「封印」の更新が必要でした。そして、その更新に必要なものは、「巫女」と「護り手」の魂。より厳密には、「巫女」の命と魂を、「護り手」が「誓約の武器」を消費し封印に編み込み。その後、「護り手」自身は自らの命と魂を消費し次代の「護り手」のための「誓約の武器」を産み落とします。こうして、巫女と護り手の犠牲が連綿と紡がれることにより、封印は継続され、世界に安寧をもたらしていたのでした。

一応言っておくと、この設定作ったの私じゃないからね? これはやみさん(※ジュリアのPLさん)が持ってた設定ですからね!! 「またお前か!」 ではないのです。

……ともかく、この事実を”一部”知ってしまったラヴィニアは、「巫女」であるセレーネとともに奥地へ行こうとする「護り手」のジュリアを見つけ、封印の儀式を執り行うつもりだと思い込んでしまいます。そして、その行いを止めようとラヴィニアは自らを「弓の護り手」と宣言し、冒険者たちに襲い掛かったのでした。
ラヴィニア自身、今までの犠牲の上に成り立っていたこの封印の儀式を、一個人の感情で止めてもよいものか葛藤があったと思います。ですがおそらく、妹の犠牲の上に成り立つ平和であれば、これまでの歴史に弓を引いてでも自らの道を「選択」しようと立ち上がるのではないかと思い、このような行動をとらせています。実際、力こそ至上である色が強いアンダルシアの里。PC達を平伏させることに成功した場合、セレーネを攫い強制的に封印を執り行おうとするでしょう(誓約の武器がないので失敗すると思いますが)

 

そして、この事実を”一部”だけ埋め込んできたのは「顔のない男」こと「レムナント」の一派にして、ディアボロの少年「ヴォイド」とドレイクの少女「ヘラ」の二人組なのですが……ここでは簡単な顔合わせだけにとどまっています。すまぬ!尺の都合で全面カットじゃ。

・PC達の「選択」

また、このシナリオでは上記設定も相まって、セレーネとジュリアの死がほぼ看過不能である以上、「始まりの獣」と全面的に戦うことをメインに話を進めていました。というか、ジュリア編第二幕の終わりごろまでは実際その運びと流れでした。「始まりの獣」アトランティカと対面し、様々な真実を知り、互いに分かり合えぬと敵対していざバトルスタート! という寸前まで行ったのですが、ここで「めい」ちゃんの行動によって物語はGMの想定を大きく上回る方向へとぶれていきます。

始まりの獣、アトランティカはすべての生物の「母」の一人として、かつて起きた戦いで、多くの子どもらを失った悲しみに暮れていました。誰よりも愛情深く、そして誰よりも愛に傷つけられた“大いなる母”こそがアトランティカを創造するときのイメージでした。定命の子どもたちは、母よりも先に死んでいく……常に置き去りにされる。だからこそ、アトランティカはこのとき

『……わたしを、おいて、いかないで』
『……もう二度と、私を愛さないで。愛しい子どもたち』

と、言葉を残しており、これまでも先代巫女たちの封印に抗うことなく封印されてました。何故なら、封印には「巫女」と、「誓約の武器」を通じて「護り手」たちの魂が刻まれているからです。封印という眠りの中であれば、アトランティカは愛する我が子と寄り添いながら、かつてのあたたかな記憶の世界に閉じこもることができたのです。子どもたちが命をなげうって封印する”愛”を受け止めながらも、その”愛”を受け止めることで苦しみを追う。しかし愛しい我が子たちの”愛”は無視できない。愛してほしいが愛してほしくない。愛による究極の二律背反の状態。
……しかし、その流れを断ち切り敵対しようとするPC達を見て、これまでの怒りや悲しみを抱えて彼女は敵対しようとします。

そんな中、めいは子どもたちは「おいていく」のではなく「巣立って行く」のだとアトランティカに歩み寄り、それは自らの意志で歩み、そしてその歩みはいつか母たるアトランティカに追いつくためであると説きます。愛するのではなく、想ってほしいとめいは語り、そしてまたいつの日か子どもたちは戻ってくるのだと。多くの戦いによって流された血と命も、醜く愚かに見えたとしても、子どもたちは自らの足で立ち、信念や、またその我が子を守るために戦っているのだと……

かつて、我が子を守るために戦ったアトランティカ自身、かつての自身の想いを、我が子たちがその胸の内に秘めていることをこの時理解します。自身と同じ思いを持つ子どもたちを、否定することはこれまでの自身を否定することであり、同時に「おいていかれる」のではなく「巣立っていく」彼らを想う事こそが母のなすべきことなのではないのか……そう思ってしまったアトランティカには、もう目の前の冒険者たちを排除することができなくなってしまいました。こうして、「始まりの獣」アトランティカは、冒険者たちに新たなる可能性を見出し、”子ども”たちの行く末を心の底から愛おしんで、新たなる盟約を結ぶのでした。

……このCPにおける「選択」という部分の中でも、最も大きな選択肢の一つであり、そしてGMの予想に反した「選択」をPCとPLが選び取った瞬間だったと思います。正直完全に敵対するものだと思っていたので、これはGMとしてもうれしい誤算でしたね! こういったCPの行く末や結末を変える「選択」というものは無数に存在し、この場面の前にも、そしてこの後もあり、それぞれPC達が選び取って物語の終着点を変えていったのは、とても面白く楽しい経験でした。まさに天晴!

◆第二十六幕~第二十八幕【ブレイザ編】

とうとう個別パートも第四弾に突入、最後はブレイザ編ですね! このパートでは、先に述べた「始まりの獣」に関する神話を総まとめし、それをPC/PL達に伝えつつ、300年前の大破局に起きた「始まりの獣」と人族、そして蛮族の出来事を伝えるパートとなっています。

PCとしてのブレイザの設定に、SW2.0より小神「蹂躙の戦乙女イズマイア」の血を継ぐ子孫(厳密にはテラスティア大陸で活躍していたイズマイアの娘の系譜)という設定があり、「神の子」としての設定が設けられていました。今回はその設定をキャンペーンに組み込み、「始まりの獣」を打ち倒すことのできる者としての役割を設定しています。

・300年前の出来事

300年前、「大破局が起きたときの物語もこのキャンペーンでは少しだけ触れています。「大破局」が起きたときラクシア大陸もまた、巨大な破壊の渦に飲み込まれて行きました。「始まりの獣」たちもこの破壊の渦に巻き込まれ、再びその災禍に呑まれたことで、「始まりの獣」たちは多くの子どもたちを失った神紀文明時代の怒りと悲しみをよみがえらせてしまいます。かつて神々と結んだ盟約である恒久なる平和は破られ、数千年の間静かに暮らし、眠りについてた獣たちはその力を解放し始める……大破局の戦乱と合わせて、再び人類滅亡の危機が訪れた時、小神イズマイアの娘が率いた軍勢が始まりの獣の内一柱、「紅鳳」と接触し、激しい戦いの末にそれを封印したのです。

その時の逸話がラクシア大陸に分散して残り、「蹂躙の戦乙女イズマイア」という神格の残滓がこの大陸に根付きます。それは純粋なイズマイア本来の神格としてではなく、イズマイアと彼女の娘でありブレイザの祖先であるもの達の活躍が混ざり合ったもので、複合的な神格としての「小神イズマイア」の伝説と神格が形成されました。今の時代のラクシア大陸で信仰される「イズマイア」というのは、本来のイズマイアとその娘たちを含むものとなっています(もちろん、この設定は当CPでの設定です)

・始まりの獣を打ち倒す者

 あれやこれやの設定によって、神の血を名実ともに継いでいるブレイザには、ラクシア大陸でのイズマイア同様、「始まりの獣」を打ち倒す力(というよりかは権利)を持っています。実際に、この個別パートが終わった後のシナリオで「紅鳳」と対峙したとき、ブレイザにのみ「紅鳳」を破壊することのできる、特別なスキルを付与してました。このPC達の中で誰よりも先陣を切って、敵味方問わずに己の道を進むブレイザだからこそこの設定を持ち出しました。

また、エアルが「始まりの獣の力を継ぐもの」であり、めいが「人と始まりの獣を繋ぐもの」といった設定を互いに持たせており、ここでペア設定にしていたため、ジュリア・ブレイザでもペア設定を持たせようという気持ちがありました。

ジュリアが「人と始まりの獣を守るもの」とこの時すでに決まっていたため、必然的にブレイザに「人と始まりの獣を滅ぼすもの」の設定を与え、ここでペア設定としています。もちろん、何を守り、何を滅ぼすのかはPC達の選択にゆだねています。

・強者との戦い

 今回のシナリオでは上記、300年前に起きた「始まりの獣たち」に関することや、ブレイザの祖先の出来事、そして「蹂躙の戦乙女」に関連する出来事を展開しています。ただ、それ以上に戦闘の色が濃く、これまでに出てきた人族でも蛮族でもない者たち、ではなく本物の蛮族たちが多く登場しています。特に、CPの後半にも登場するダークトロールの武人「アレキシス」は蛮族でありながらも豪放磊落に、武人としてPC冒険者たちと正面からぶつかり合い、「お前たちの戦う理由はなんだ?」と問いかけてきます。

このCPでは結構な頻度で、PC達に対して「問いかけ」を行っており、そのやりとりを通じてNPCやエネミーとの関係性を深めたり、もしくは戦いになったりしています。今回では、特にブレイザに対して「お前は何のために戦うのか、戦いのその先に、一体何を求めるのか?」という問いかけを行っています。

神の血を引き、人も、始まりの獣も、そして蛮族すらも屠ることができるその力を、一体何のために振るうのか。そういった問いかけも内々に含まれていました。

 

 

始まりの獣とつながりを持つ少年、エアル。
人と始まりの獣を繋げる力を持つ少女、めい。
人と始まりの獣を守り続けた者たちの末裔、ジュリア。
人と始まりの獣を滅ぼす神の血を引く子、ブレイザ。

それぞれのPC設定をシナリオに練りこみ、大きなCPの根幹設定に埋め込もうとした「個別パート」編は以上のようなものでした。正直な話、滅茶苦茶楽しかったけど、滅茶苦茶難しかった……
元の設定が大きすぎたので、そこに落とし込んでいくのも大変でしたが、純粋に4人分の設定を練りこむというのは、想像以上に大変なものでした。話もまとまりがなくなり、伝わってない部分、伝えられなかった部分、間違えて伝わっている部分がかなり多かったと思います。今にして思えばいい経験ですが、やってる最中は死にそうになってましたね! 設定だけ用意して、全く使わなかったものもかなり存在しています。それぞれのお話や、CP的な裏設定もまたどこかで公開できればいいなぁ……

■【終局編】二十九幕~終幕、この物語の結末は?

このパートでは、「今までに開いてきた広大な風呂敷を一気にたたむフェーズ」になっています。「顔のない男、レムナント」たちの行動が表面化し、新たな世界を創造するため、既存の世界に対して宣戦を布告します。また、今までレムナントについて謎だった部分を一気に展開し、物語を最後のシーンへと一気に収束させていきます。

話数にして9話11セッションであり、全ての謎が明らかとなり、PC冒険者たちとレムナント率いる「半端者たち」が全面的に争う……そんな物語です。

結論から言ってしまうと、この「300年目の英雄譚」GMが想定した中でも、最良のENDを迎えることができました! ハッピーエンドというよりかは、トゥルーエンドに近かったんじゃないでしょうか?

厳密なお話をすれば、CPの根幹にPC達の「選択」というものが存在してるため、実のところシナリオ作成時に明確なEND分岐は存在していません。そのため、ハッピーエンドやバッドエンドも存在しません。便宜上トゥルーエンドと言ってはいますが、物語の終わりに関して、PCやPLがどのように受け取っているのかは解らない。というのが正直なところです。

ただ、1年半と続けてきていたCPですので、各PLの中で納得いく終わりであったのならGMとしては大変にやりがいがあり、やっててよかったな。と思う次第です。

◆第二十九幕~第三十一幕「《始まりの剣》級の授与式典と全面衝突」

 二十九幕から三十一幕にかけては、個別パートからの幕間シナリオを挟み、《始まりの剣》級冒険者ランクを授与する式典を開催しています。このCPでは、名誉点と冒険者ランクに関してハウスルールを設けており、一定名誉点に到達しても冒険者ランクの更新がPC側ではできないルールを設けています。代わりに、冒険者ランクの習得に名誉点を消費せず、一定名誉点に到達するとシナリオ側から《冒険者ランク》が授与される仕組みになっています。第三十幕では、これまでの冒険者たちの活躍が認められ、ハ―ヴェス王国王宮にて《始まりの剣》級の冒険者称号が授与される式典が開かれました。当時、すでに名誉点的には大陸でも勇名を馳せていたPC達。その功績が中央の冒険者ギルド本部に認められ、盛大な式典と共に、主要各国に中継される中で冒険者称号の授与が行われます。全く無名だったころから、大陸に名をとどろかせるまで成長したPC達を見ることができたのは、うれしい反面、すこし寂しさもありますね……

さて、ハ―ヴェス王国の国王や、これまで共に冒険を見守ってきたギルドマスターのガルフ、ライバル冒険者たちがPC達の授与式典を見守る中、《始まりの剣》級の冒険者ランクを授与されるPC達。そこに招かれざる招待客が現れます。「顔のない男、レムナント」と、共に歩む者たちであるディアボロの少年「ヴォイド」とドレイクの少女「ヘラ」の3人が、式典へと侵入してくるのでした。

彼らは冒険者たちの授与式典に現れ、新たな英雄の誕生を祝いながらも、それが人族最期の英雄だと宣言し、新たなる世界の到来を述べ、既存の世界に対して大々的に宣戦布告を行います。そして、ハ―ヴェス王家が代々隠している秘密「四柱目の始まりの獣」についての在り処を聞き出してきます。

・亀裂が広がる人族陣営

その後、彼ら侵入者を撃退することに成功するPC冒険者たち。しかし同時に、各地域で蛮族たちが同時多発的に行動を開始し、各国・各地域で戦闘が勃発。授与式典もそこそこに、各国の代表たちや冒険者たちは、その不意打ちに応対することとなります。また、「レムナント」は去り際に、ハ―ヴェス王国の持つ秘密の開示、または王女であるアイリス・ハ―ヴェスの身柄を渡すことで軍勢を退かせると言い残していきます。このことから、各国からはハ―ヴェス王国に対して、即座にアイリス・ハ―ヴェス王女を、レムナントに引き渡すように要求。早くも人族の中で不穏な気配が漂い始めます。

そんな中、ハ―ヴェス王国とアイリス王女は、PC冒険者たちに王家の秘密である地下遺跡への入り方と、最後の始まりの獣を託します。そしてもし、始まりの獣と接触ができなかった場合は、アイリス自身、自ら敵の手へと渡されることを覚悟しているとも伝えるのでした。

・四柱目の「始まりの獣」

このキャンペーンで登場する始まりの獣は四柱存在し、それぞれある一定の地域を支配しています。銀狼のアトランティカは北部を、蒼竜のセレノスは東部を、紅鳳は西部を、そして最後の白鯨は南部を支配していました。この最後の南部を支配する白鯨の現在の居所は、水の都にして導きの港ともいわれる「ハ―ヴェス王国」の深部、水没した地下遺跡に匿われています。かつて、魔動機文明時代の末期、ハ―ヴェス王国の前身となる国家は「始まりの獣」を用いた実験に蒼竜セレノスと、白鯨を加えていましたが、大破局の到来と共にこれらを封印し、その存在を隠匿していました。そのうち一柱、蒼竜セレノスについては発見されてしまいましたが、白鯨に関してその居所は完全に闇の中。唯一、王家の人間である国王や王女のみ、ハ―ヴェス王国の遥か地下に眠る遺跡に、始まりの獣の最期の一柱が匿われていることを知っていたのでした。

レムナントたちは、始まりの獣の力を得る、もしくはつながりを得るために、最後の獣を探し求めており、今回、最後の力を得るためにアイリス・ハ―ヴェスの身柄引き渡しを要求してきたのでした。もちろん、人族同士が自らの国の安全を求めるため、アイリス・ハ―ヴェスをレムナントへ引き渡すように要求することも計算内です。内部の不和をもってして、戦い全体を優位にすることが最大の狙いでもありました。

第三十三幕では、最後の「始まりの獣」である白鯨と接触するため、ハ―ヴェス王国の地下遺跡へと潜り、遺跡を探索する回となっています。

・大規模な地上戦と、旧い英雄

PC冒険者たちが地下に潜っている間にも、地上の戦いは進展していきます。第三十三、三十四幕では、この激しい地上戦を舞台に、ちょっとした戦略ゲーム的な要素を含んだミニゲームをしつつ、敵蛮族軍団を打ち倒していきました。

西部カスロット砂漠の戦域では、大挙して現れた蛮族軍とそれを指揮するドレイクの少女「ヘラ」によって、マカジャハット王国軍は壊滅的な打撃を受け壊走。王国は船団を組織し、街の民間人をハ―ヴェス王国やキングスレイ鉄鋼共和国などへ海路を使って逃がしますが、国家としては滅亡してしまいます。また、ラージャハ帝国も善戦するのですが、ディアボロ「ヴォイド」率いる蛮族軍団によって、戦闘能力を喪失。降伏し国家としての機能を喪失してしまいます。

ブルライト地方の東部地域では、ファーベルト平原の各所にて蛮族軍団が地下より出現。平原の村落は甚大な被害を受け、グランゼール王国やユーシズ魔導公国もまた、防戦一方の厳しい戦況へと陥ります。中央に位置するハ―ヴェス王国には、蛮族軍団の総大将でもあり、ブレイザの個人パートで登場したダークトロールの武人「アレキシス」率いる精強な軍団が迫っており、全面衝突は時間の問題となっていました。

地下遺跡で「始まりの獣」の内、白鯨と接触し、協力を取り付けることに成功したPC冒険者たちは、白鯨の背に乗りそのまま大海原へ。ファーベルト平原南部の海岸線沿いに出現し、白鯨の力を借りて海岸線沿いの蛮族軍を一掃したのち上陸。東部戦線へと参加します。敵の主要部隊を殲滅しながら、冒険者たちはエアルの生まれ故郷であるセレノシルの村を救ったり、蛮族軍団との戦闘が勃発していたグランゼール王国やユーシズ魔導公国の戦線に参加。周辺部隊と協同し、敵の蛮族軍団を撃滅していきます。

実はこのシナリオでは、加勢する地域を選択することができ、西部戦線に参加していた場合は、マカジャハット王国やラージャハ帝国を救うことも可能でした。その場合、のちに登場するNPCやイベントが若干変更され、代わりに東部戦線が壊滅的な被害を受ける展開へと変わっていきます。今回は東部戦線に加勢したため、NPCとしてはカスロット砂漠横断編に登場した「スチールスチーム」「シュトラール」、また七葉さんがGMとして開いてくださった「魔導死骸区シリーズ」から「夜露草」のメンバーも参戦! PC達と一緒に戦場で戦ってくれました。

東部戦線を平定した冒険者たちは一度ハ―ヴェス王国へと戻り、今度はこのハ―ヴェスへと進軍してくる「アレキシス」率いる精鋭蛮族軍団と渡り合います。 しかし、これに待ったをかける人物が現れます。それは、「月夜の狼亭」のギルドマスターにして、PC冒険者たちを今までずっと見守ってきた、ギルドマスター「ガルフ」でした。

彼は、これ以上の戦闘を続行することに否定的であり、直ちに戦闘を停止し、民間人を率いてこの街を離れるべきだとPC冒険者たちに告げ、強権的に冒険者ギルドとして蛮族軍との直接戦闘を禁止してしまいます。このまま戦闘を開始したところで、人族側への被害は甚大であり、何より君たち「英雄」の行動は、多くの人を死地へと追いやるのだと。その言葉は、今までPC冒険者たちに接してきた優しいギルドマスター「ガルフ」ではなく、冷たく冷徹で、なにより今まで見たことがないほど強い意思を秘めた言葉で冒険者たちへ、そう告げるのでした。

・ギルドマスターの役割

冒険者ギルド「月夜の狼亭」のギルドマスターにして、PC冒険者たちの成長を見守ってきた「ガルフ・ローラン」というNPCは、この物語において「先の時代の英雄」という役割を持っています。かつて《始まりの剣》級の冒険者ランクを所持しており、今回のような、大規模な蛮族軍団との戦闘経験を有している古強者です。しかしながら、その蛮族軍団との戦闘によって、多くの冒険者や民間人を守ることができず、英雄としての「個」の力の脆弱さと、なにより力あるものの影響力の恐ろしさを痛感した人物でもあります。

序盤、彼の役割は「先の時代の英雄」として、後続を育成し、導くという点にありました。あと、もしPC達が暴走したり、窮地に陥った時に介入できる「GM用キャラクター」としての役目も担っています。できる限り彼らの為に動き、可能な範囲で願いが叶うように調整し、強い冒険者へと育てていきます。

しかし、終盤以降は「先の時代の英雄」として、「今の時代の英雄」たちに超えられていく存在として描いており、越えられない壁から超えるための壁へと、その役割をシフトしていきます。英雄として成長したPC達が、その実力を確認できるための障害として、今まで側にいた、多くは語らない旧き英雄を超えていく。そういった物語となっていきます。

そして、第三十三幕の後半ではまさに「旧き英雄」「新時代の英雄」たちが前面からぶつかり合う物語となっていきました。たった4人の若き英雄たちは、自らの世界を守るため、自らの大切なものを守るため、ハ―ヴェス王国へと迫る蛮族軍へと相対しようとします。しかし、その目前に立ちふさがるのはギルドマスターにして、「旧き時代の英雄」であるガルフ。ガルフは「英雄の救えるものには限度がある」「英雄の行動それこそが多くの人々を死地へと追いやる」と「新時代の英雄たち」であるPC達へと語り掛け、「君は仲間の、友の、戦友の灰を背負いながら戦う覚悟はあるのか?」と問い詰め、剣を抜き、超えるべき最後の試練として立ちふさがるのでした。

ここら辺のNPC設定と、PC達との精神的対立はキレイに浮き出ていて、当初の想定通りに事が進んで大変良かったですね。ガルフさんも表に出せていない設定や、ここでは書ききれない設定が多々あるので、またいろいろまとめて行きたいですね……(いつのことになるのやら)

・嵐の季節と終わりの獣

旧き英雄として立ちふさがったガルフを下した冒険者たちは、蛮族の軍団と相対します。ハ―ヴェス王国を半包囲しつつある無数の軍勢VSたった四人の英雄たち。群対個の頂点を極めたような戦場で、英雄たちは無双の活躍をしますが、次第に数に押されて行きます。そんな中、冒険者たちの元に現れたのは、「月夜の狼亭」のギルド旗を掲げて現れたライバル冒険者たち。その「狼と月」をあしらった旗印には、「夜明け」を示す太陽が書き加えられ、次々と冒険者ギルドの仲間たちがあられます。彼らは皆、ギルドマスターの指示を無視し、自らの意志で同じ戦場へと駆けつけたのでした。それを示すように、彼らは皆「冒険者証」をギルドに置き、友人として、戦友として、ライバルとして、PC冒険者たちの隣へと立ってくれます。

駆けつけたのは「月夜の狼亭」の冒険者だけではありません。CPで登場した他のギルドや、王国を守る兵士たち。国王を守る騎士たちもまた、英雄に続き、自らの街を守るために立ち上がり、共に戦ってくれます。

そうして始まった最終決戦は、先にもやった戦略ミニゲームを挟みつつ、冒険者たちが見事街を守り抜き、軍団を率いていたダークトロール「アレキシス」を打ち取るのでした。この時の演出は、実はこのCPをやる前から想像していたものでした。

目の前には荒涼と広がる戦場。果てに広がるは無数の軍勢。何百、何千、何万という敵が立ちふさがる。しかしてそれに相対するのはたった4人の英雄たち。しかし、その英雄の元に、仲間が、友が、戦友が、ライバルが。場所を超え、時を超え、国境や種族の垣根を超え、英雄たちの旗の元へと集い、最後の戦いに赴く……

王道な展開かもしれませんが、こういうの大好きなんですよね! この伝え方で伝わる人あんまりいないと思いますがACE COMBAT5の、各国の部隊が集結して反抗するあのミッションみたいな熱い展開は大好物です。(CPの演出をするときも、AC5のミッションを参考にしていたりしました)ちょいちょいいろんなゲームや映画やアニメや小説の展開を参考に、CPに組み込んでいたりするのでもしかしたら気が付いた人もいたかもしれません。

軍団の長を打ち取られ、壊走を始める蛮族軍団。しかし、遥か西方から夜明けの如き輝きと共に飛来する、巨大な鳳が現れます。それは、「ヴォイド」と「ヘラ」を伴いながら、破壊の嵐を巻き起こしつつ、勝利の余韻に浸っていたハ―ヴェス王国を突如として襲い始めるのでした。ここで登場したというのは、始まりの獣にしてブレイザの個別パートで存在を示されていた「紅鳳」であり、PC達が最後に直接出会い、そして戦うこととなる「始まりの獣」です。四柱いる獣たちの中で、最も好戦的であり、300年前の大破局では蹂躙の戦乙女「イズマイア」率いる混成軍に討滅されながらも、甚大な爪痕を残して行った獣とCP内では位置づけています。

これまで、「始まりの獣」たちとは何であれ通じ合うことができたのですが、この獣は初めから怒りのままに、闘争のままに破壊と暴力を振りまき、ハ―ヴェス王国を半壊へと追い込んでいきます。多くの兵士や騎士や冒険者たちが、街の一角ごと消し飛ばされていく。もはやそれは戦いなどではなく、一種の自然災害のようなスケールで紅鳳は怒りをまき散らしていきます。第三十伍幕では、怒れる旧き神と英雄たちがぶつかり合う物語となっています。このシナリオはどちらかといえば戦闘寄りで、空を飛ぶ巨大な鳳に対して、3方から飛空艇に乗った冒険者たちが同時攻撃を行い攻め落とすというもの。PC冒険者たちを含め、3つの冒険者チームが3つの飛空艇に分乗し、右翼・左翼・そして胴体へと同時に攻撃を仕掛け、始まりの獣を無力化するお話でした。

・始まりの剣とレムナントたち

そして、第三十六幕と最終回である終幕では、顔のない男────レムナントと、彼と行動を共にする「ヴォイド」「ヘラ」の二人の生い立ちと、その正体が明らかになり、世界をかけての最期の戦いが幕を開きます。

かつて魔動機文明時代の末期。人々は「始まりの獣」たちを用いて様々な研究を行っていました。特に、始まりの獣の力を用いて、より高次の生命体を生み出す研究───奇しくも魔法文明時代に生み出されたハイマンや、魔動機文明時代に産み落とされたルーンフォークのような───新しい人族を生み出す実験が行われていたのです。しかしながら、当時の科学力をもってしても、新時代の生命体を産み落とすのは容易ではありませんでした。そこで科学者たちが目をつけたのが、「始まりの獣」たちを産み落としたという「始まりの剣」だったのです。

第一の剣ルミエルと、第二の剣イグニスは現在に至るまでその在り処は謎に包まれています。第三の剣カルディアは、神々の戦いが起きた神紀文明時代に砕け、世界にマナを拡散させたとされています。そして第四の剣であるフォルトナも、「始まりの獣」たちによって破壊されていました。しかしながら、断片的にその「剣の欠片」は残されており、世界のあちこちに散逸されていたのです。当時、ラクシア世界のほぼすべてを手中に収めていた人族は、各地に散らばった「剣の欠片」を集め、かくして一振りの魔剣を産み落としました。それが、「イミテーション・フォルトナ」と呼ばれる、フォルトナの欠片から打ち直された魔剣です。科学者たちはその魔剣の力と、「始まりの獣」たちの力を用い、新たなる生物を産み落とす計画をさらに躍進させていきます。そうして、新たなる生物を産み落とすため、科学者たちは既存の生物を掛け合わせることで、新たなる生物を産み落とす狂気の実験に飲み込まれていくのでした。

「人」「始まりの獣」の力を抽出し、人為的に鋳造されたナイトメア「ユエル」

「人」「蛮族」を融合させて産み落とされたドレイクの少女「ヘラ」

「人」「魔神」を掛け合わせて創造されたディアボロの少年「ヴォイド」

それらの実験の副産物として生まれた、双方の「残りかす」が集まってつくられた生物「リリアーヌ(のちのリリー)」

そして、「イミテーション・フォルトナ」として新たに打ち直されたことで、新たに自我を獲得し、自身を振るうに値する「担い手」を探すために現れた剣の分身にして、影である「顔のない男───レムナント(残骸)」がこの世界に誕生したのでした。

彼らの存在意義は、「新たなる世界の創造」とそこに住まう「新たなる生物の誕生」。彼らの野望は、300年も前の魔動機文明時代に産声を上げ、そうして今、PC達冒険者が活躍する時代になって、ようやく実を結びかけたのです。

・『300年目の英雄譚』とは

そんな彼らの生まれた背景を語ったのが第三十六幕で、それらすべてを知ったうえで、彼らと最後の決戦を行ったのが「終幕:300年目の英雄譚(最終話)」でした。上記の通り、彼ら「レムナント」と4人は、「新たな世界を創るために産み落とされた、生まれながらの英雄」でした。すべての生物を、魔剣「イミテーション・フォルトナ」の力を用い統廃合し、神々すらも廃することで、完全に平等で、公平で、矛盾のない真なる世界の創造を行う。だから、彼らにとってこの300年間は準備期間であり、本当の意味で動き始めたのは表に立って宣言を始めた今のこの時です。それゆえに、最後の決戦でPC達に対して「さぁ─────300年目の英雄譚を、今より始めましょう」という言葉をかけていたりします。もっとも、この時の発言は「私たちが新世界の英雄として名を遺すか」「PC達が現世界の英雄として名を遺すか」の二通りの意味としても捕らえることができたりします。とらえ方は、それぞれにお任せするとしましょう。

そうして、「300年目の英雄譚」となる最後の戦いが幕を開けたのでした。

CPの大トリにして本当にラスボスとして立ちふさがるのは、人でも、蛮族でも、魔神でもない、半端ものの英雄にして、魔剣「イミテーション・フォルトナ」を手にした「ヴォイド」と、かつて魔動機文明時代に研究された始まりの3剣たちのレプリカ。ヴォイド自身、手にした「イミテーション・フォルトナ」の力を受け取り続けることで、その肉体を神へと進化させ続ける、究極の生命体へと変貌しています。また、これまでの冒険の中で、彼らが接触した「始まりの獣」たちからその力の一部を吸収し、狼、竜、鳳、鯨の幻体を召喚して戦うこともできる、最終決戦仕様になっています。その部位、なんと11部位。レプリカ魔剣(イクシード・ディザスターを超強化したもの)3振りを合わせて計20部位の英雄決戦です。CPの最期で強さが超インフレしているからこそできた、むちゃくちゃな戦闘だったと思いますが、滅茶苦茶できて(されて)とても面白かったです!

・決着、そして選択

全てを終え、「イミテーション・フォルトナ」を持った英雄、ヴォイドを下した冒険者たち。神に匹敵する力を得た怪物を倒した人間たちは、全てを失ったヴォイドと相対します。しかしながら、「始まりの剣」とほぼ同等の力をもつ「イミテーション・フォルトナ」を失い、力を失った神罰として、ヴォイドの身体は徐々に灰へと変わっていきます。強力な「祝福」を得た代償は、同じく強力な「呪い」。苛烈な戦いの後に残されたのは、多くの友を失った傷ついた世界、そしてすべての元凶であり、力の根源である始まりの剣「イミテーション・フォルトナ」

ここで、冒険者たちはCP最後の選択をすることとなります。それは「始まりの剣」の担い手となるか、それともこの魔剣を破壊するか。

担い手となれば、この世界のすべてを作り替えるほどの力を手にすることができます。ただし、代償としてPC達は「神」への階段を上ることとなるでしょう。それに、再び剣を求める争いが起きないとも限りません。ですが、この惨状をひっくり返すことができきるのもまた事実です。

破壊すれば、すべての元凶である「イミテーション・フォルトナ」をこの世界から永久に消し去ることができます。多くが傷つきながらも、本当に求めた真なる平和に、一歩近づくのかもしれません。

ここの選択では、かなりPC(≒PL)の間で違いがみられました。すぐさま答えを出したブレイザ、ジュリアに対して、悩み、葛藤するめい、エアル。ここの違いは、最初から最後まで変わることなく、「迷い」の部分に関しては、PCの根幹部分が見えていたんじゃないかと思います。

神になることを恐れず、むしろ嬉々とした様子で「剣」を手にすることを厭わないブレイザ。

神になることもいとわず、己の世界の守護と安寧のためであればと動くジュリア。

最後まで人として生きることを願い、限られた時の中で大切なものと寄り添うことを選んだめい。

過去を白紙にすることを願わず、今ある世界と共に生きることを望みながらも揺れる少年エアル。

四者四葉というか、それぞれに願いも、想いも違うのはこのCPらしいかな、と思いましたね。こういう物語だと、最後は英雄ポジションのPC1が先導し、他のPC達もその考えに心の底から賛同してEND。というのが多いイメージですが、ここまでそれぞれに感情が違うのも珍しいかもしれません。

しいて言えば、剣を取ることに迷いがないブレイザはPC1と言えなくもないですが、イメージする英雄像よりもはるかにバルバロス寄りなものになりそうな気がします。ある意味では一番平等な世界になりそうですが、戦いに寄ったものになりそうです。ジュリアは徹頭徹尾、考えがぶれてないのが面白いですね。ただ、一番最初は剣を破壊すると言っていたのが、ブレイザの意見に賛同している点でしょうか。この少しずつ変わっていった感情も見ていて面白い所ですね。
めいはといえば、エアルとともに生きる道を選びつつも、「神」としてではなく「人」として最期まで寄り添いたい。というのが非常に印象的でした。ここで願えば、ナイトメアのエアルと同じ年月を生きることもできたのですが、あえてそれを選ばないのがいいですね……そしてエアル君は、この長い冒険の中で自身の強さと同じだけ、弱さを知った、という気がします。実はこの時、PC達の結論としては「剣を手に取り、時間を遡行することで過去に戻り、この惨劇をなかった世界へと作り替える」という選択をしているのですが、「過去をなかったことにできる」ことを知ってしまったら、強くあれそうにないと、自分自身を評価しているのが印象的でした。

冒険者たちは話し合いの結果、「剣を手に取り、時間をさかのぼることで、この戦争が勃発する前まで立ち返る。そして、戦争が起きない世界へと作り替える」という選択をしたのでした。ただし、エアルに関しては戦いの記憶を削除し、他の大勢と同様に遡った時点の記憶を保持するものとしています。

・語り継がれぬ英雄譚

こうして、「300年目の英雄譚」の戦いは、英雄たち4人(厳密には3人)と一部の者たちのみに記憶され、「語り継がれぬ英雄譚」となって幕を閉じました。結果的に多くの者たちは戦いによって死なず、PC達と縁深かったキャラクターたちもこの事実を知ることなく、「戦いの起きなかった世界」へと作り替える、もしくはそういった世界線へと分岐させることで、未来に起きた争いを回避しました。いずれ作り替えたことによるほころびがどこかで生まれるのか、はたまた更なる破滅への分岐へと進めてしまったのか、それはわかりません。

ですが、「神」へと至る権利を得た冒険者たちは、いずれの結果にいたたとしても、何度でも己の力で道を切り開いていくのでしょう。「夜明けの理想郷」は、本当の意味で人々に夜明けをもたらし、より良い世界へと進むため、未知の分岐を進んでいき、世界に理想郷を産み落とす……のかもしれませんね。

この物語の後日談はありません。私が描ける部分は全て描いてしまいました。ここから先は、それぞれの冒険者であり、PLである皆さんのご想像にお任せしたいと思います。

■最後に

結局長々と書いてしまった……ここまで読んでくださる方がどれだけいるかは謎ですが、こうして冒険の道のりを残せたのは本当にPLの皆さんのおかげでした! 感謝!

実際のログなどは、下記Google Driveに保存されておりますので、もし興味のある方がいらっしゃったら読んでみてください。ここに描いた内容は、冒険者たちが歩いた道のほんの一歩にしかすぎません。彼らの激動の冒険録を、是非ご覧くださいませ!

戦いの記録───セッションログ - Google ドライブ

今後も、GM側から見た内容にはなりますが、振り返り記事や幕間、実際のデータなどをのこしていくかもしれません。もしもっと興味がある人がいらっしゃれば、とたけのTwitterなどに絡んでいただいても結構です。お応えできる範囲で応えさせていただきます。

繰り返しになりますが、「300年目の英雄譚」PLとしてともに遊んでくださった、はやみさん、じゃっくさん、ベーゼンさん、七葉さん。1年半の間、本当にありがとうございました!!